あれからもう何年経ったろうか。
未だにあの時の事を夢に見る…。
10年ほど前のこと…
「ついてくるなよー。」
いくら言ってみても付いてくるのがリアだった。
何をするのも一人じゃなくてリアがいた。
たまには嫌になってわざと付いて来れないような
場所にまで行ってみたりもした。
そしてあの時。
何も考えないで行くなと言われていた森まで来た俺。
いつものようにリアも付いてくるけど
森は足場も良くなくてリアも大変そう。
ちょっと意地悪しすぎかも。
本当は大好きな妹だけどいつまでも一緒にいられるわけでもないんだから
きつくしないと…。
「お兄様待って〜。
ちょっと休もうよ〜。」
リアからしたら何でも良かったのかもしれない。
ただ俺と一緒なら。
森は更に複雑になって道らしい道はなくなってしまう。
怪しい奇声が聞こえてきたり…。
「はあ〜疲れた。
ねえねえ、お兄様はどうして森に来たの?」
いきなり聞いてくるのも無垢なリアならではかもしれない。
けど、本当の事を言うわけにもいかない。
「ここの奥に綺麗な泉があるんだ。
それを見せたくてな。」
「ほんと!?
じゃあ早く行こっ。」
本当にあるかも知らない嘘を言って誤魔化しても
リアは簡単に信じてしまう。
外へ出たらリアはどうなるんだろう…。
それからしばらく歩いていくと本当に泉が現れた。
「ほんとだ〜綺麗だねっ。」
にこにこしているリアにニアは唖然としている。
ほんとにあったのか…。
まあ、良いや。
喜んでるみたいだし。
「お兄様。
何をぼーっとしているの?
こっちに来て一緒に遊びましょ〜?」
まったく…。
とか言いながらこんな時間が一番好きだったニアだった。
そして、リアがなぜか持っていた柔らかいボールを
投げ合って遊ぶ。
リアはおっちょこちょいなくせにコントロールがめちゃくちゃ良い。
物を投げると99%狙ったところに行っていた。
それに比べて俺は…。
だからまた意地悪をして思いっきり変な方向へ投げてみたり。
「も〜〜〜お兄様のへたっぴ〜。
取りに行くの大変じゃない。」
ちょっと変なとこに投げすぎたかな…。
後でちゃんと謝っておくか…。
「きゃっ。」
どぼん
「!?」
リアの小さな悲鳴と何かが水の中へ落ちる音がした。
俺は辺りを見回したがやはりリアの姿はない。
落ちたんだ。
ニアは急いで泉の手前まで行った。
どこまでも澄んでいる水。
その中に沈んでいくリアの姿を見つけると
慌ててニアは泉へ飛び込んだ。
待ってろ。
今助けてやる。
俺が絶対に…。
もう意識がないのかリアはもがくこともせずただ沈んで行く。
ニアは懸命に潜っていくが沈むだけのリアの方が速く
まったく追いつくことができなかった。
そのままニアも意識を失ってしまい目が覚めたのは
真っ白な空間だった。
天国!?
いや…ここはもしかしたら…。
昔聞いた事があった。
いくつもの世界が共存して世界があると。
辺りを見ると少し離れた場所にリアが倒れていた。
「リア!?」
急いで近づくと胸に耳を当ててみる。
「生きてる…。」
ふ〜っと大きなため息を付きその場に大の字になって寝る。
ここがそうなのか?
だったら俺たちのいた世界はどれだ…。
いくつもの扉が存在するボーダー。
入ってきた扉が分からない。
「ん…。」
リアが目を覚ました。
「大丈夫か!?」
「うん…ここはどこ…。」
意識もはっきりしてるみたいだ。
良かった。
「ここは多分世界の果て。」
「せかいのはて?」
「うん。
ここからいろんな世界に行けるんだ。
だけど、元の扉がどれか分からない…。」
何かを考えているのかリアは辺りを見て何かを探している。
「どうしたんだ?」
「ボールがない…。」
「!?
拾えなくて泉に落ちたんじゃないのか?」
「ううん…拾ったけど落ちちゃって…。」
「だったら気を失った時に離したのかも?」
うーん…と考え込むリアにニアは不思議に思っていた。
落ちてすぐにニアは飛び込んだはずなのに
リアの回りにボールなんてなかった気がしたのだ。
リアの勘違いだろうか。
それとも俺がリアしか見てなかったのだろうか。
ふとリアを見ると近くにあった扉をノックしている。
「すみませ〜ん。
誰かいませんか〜?
開けますよ〜。」
なっ!!
リアがそのノブをひねり開いてしまった。
「よせっ、リアっ。」
開かれた扉に吸い込まれていくリアを追うように
ニアも吸い込まれて行った。
その先にあるものは…。
「あれ!?」
「いてて…。」
戻ってきた。
良かった…。
「リア、ボールは諦めて屋敷へ戻ろう。
もう、だいぶ時間過ぎたみたいだ。」
辺りは薄暗くなり夕暮れが近づいていた。
「うん…。」
しょんぼりするリアにニアが頭をなでなでとすると
すぐに顔が和らいでニコニコしだす。
「ボールの変わりに今度別の物やるからな〜。」
「本当!?
何くれるのっ?」
「うーん…何が良いかな。
俺の一番大切な物やるよ。」
すぐに思いつかなかったからとっさにあいまいに答えた。
「ほんと!?
嬉しいな〜。
一番なんてなんだろ〜。」
「後で俺の部屋にこいよ。
それまでに用意しておくからな。」
「うんっ。」
しかし、部屋に来る事はなかった。
屋敷へ戻った俺とリアはそこで最大に事件に出くわした。
屋敷に入った途端の事だった。
目の前にはリアがいた。
瓜二つ…。
そして横にいるはずにリアを見た時…
その姿は既に無かった。
同じ人間、生き物、全てのものが出会ってしまうと
虚世界の方は自然消滅する。
リアはその瞬間この世から消えてしまった。
すぐに事を理解した俺はパニックになっていたのかもしれない。
目の前にいたリアを俺は連れ去った。
あの場にいたリアはまったく気が付いてもいなかったらしく
暴れたりすることもなく俺に付いて来てくれた。
再び泉まで来て飛び込むと必死に元の世界の扉を探して歩いた。
あのボールを手がかりに…。
それからどれくらいの時間がかかったのか分からない。
無事に実世界へ戻った俺は虚世界のリアだとばれないように
毎晩リアと会話するようになった。
少しでも違いがあるならそれを直させ
絶対にばれない偽者のリアを作った。
それからというもの俺はずっとあの世への行き方を探した。
毎日のように泉へ通い、
ボーダーへ行き、
何かリアへ繋がる道がないのかずっと探し続けた。
その結果あの世への扉がある事を知る事が出来た。
だが、死者として扉の前に行くかしかないと言うことも知った。
いくら扉を見つけられても開けられないなら意味はなかった。
そして生きる意味も既になかった。
運命には逆らえない。
そんなどうでも良いしきたりのせいにして俺は生き続けた。
そんなある日。
リアが一人で遊んでいるのを見ていた時の事だった。
リアが急にニアの視界から消えたのだ。
急いで駆けつけるとリアは数メートル下へ転げ落ちていた。
すぐに駆け寄ったニアがリアへ触れようとした時
それは起こった。
金色の空間が二人を覆いはじめ
そこら一帯が取り囲まれると
妙に心地よい空気が包み込む。
するとみるみるうちにリアが負った傷が消えていく。
それを初めはリアの持つ能力で回復させるものだと思っていた。
けど違った。
あれは時間をさかのぼれる力がある事をつきとめた。
だが、意識的にあれを発動する事はなく
無意識の中でしかあれは現れなかった。
だから自分の力であれを発動できるようになってもらう必要があった。
その結果、俺はあの世にいけたがいくら探したって
あの時のリアはいるはずもなかった。
これでもう俺のする事はなくなった。
そのはずだった。
あの場所であのリアに殺されるなら
それこそ本当に運命だと思った。
だが、あのリアは俺に殺気がないと知って
ぎりぎりのところで手を緩めたんだ。
そして…
兄さんが死ぬ必要はどこにもない。
さあ、帰ろう。
最後にくれたあの言葉が俺にはとても嬉しかった。