良く晴れた午後にもかかわらず部屋に籠りカーテンも閉めたまま熱心に机に向かう少年は
小声で何かを呟きながら少年の目の前に広がる世界を見ている
そこにあるものは偽りだらけの世界でもあり人間の本質の見える世界でもある
パソコンというものが現代社会に広がってもう10年以上
今も新たなる偽りと本質の世界が少年の目の前で始まろうとしていた
少年はいつものように面白い物を探しては自分のHPに書き込んでいた
今も掲示板のカキコの返事を書いているところ
『今回のも笑っちゃったよw
LEOさん次も期待してるね』
LEOと言うのは少年のHN
ネット上では本名よりもこれが当たり前であり誰もがもう一人の自分を作り出せる
嫌になれば捨てるだけの世界
少年にとってLEOでいる時間が全てだった
嫌な奴が来たら排除して自分に害のない人だけの世界を作り出す
それがたった1つの楽しみだった
LEOのHPは結構人気があり返事を書くだけでも数十分ほどで
やっと最後のコメントだった
しかし最後のがLEOの嫌いなタイプのカキコだった
カキコというよりもネット上で言うと『荒らし』
宣伝やなんかを勝手にカキコしていく奴らのこと
そこにはただどこかにつながるサイトのアドレスがあっただけで他に言葉もなかった
いつもなら業者だろうと思い削除してしまうLEOだったのだが業者なら宣伝くらい書くの
が普通と思うとその先にある世界に触れてみたくなった
そしてためらいながらもその扉を開くのだった
カチッとクリックするだけで後はなんの音もなくサイトは開かれてゆく
黒い背景に血を連想させるような枠が現れ次第にサイトの全体が表示されてゆく
さほど時間もかからずにトップページは開かれた
真ん中には英語ではない
まして日本語でもない言葉が書かれている
読む気もなく入口らしき物を探し当てると更にクリック
トップとは打って変わって淡いグリーンの背景に黒字の文章が現れ言語の選択らしき項目
があった
LEOはためらうこともなく日本語を探した
日本語にした途端聞き覚えはないがどこか懐かしい曲が聞こえて来た
昔どこかで聴いていた気がする
LEOはそう思うと少しだけその曲をただ聴いていた
しばらく経つと曲はリピートされいつまでも流れている
また後で聴こうと思いまがらも次のページへ進むが
日本語にしたって文字なんてほとんど読むことはしない
適当にページを移動してゆく
対して面白みの無い普通のサイトだ
『個人差サイトの宣伝だったのか』と思いつつカチカチと進んでいたが
あるページでぴたっとLEOの手が止まった
○○診断には結構興味のあったLEOだが今までに見たことも無い○○診断だった
そこには『貴方の望み診断』とあった
まず名前を書き込み歳、性別・・・色々と書いた後に『今欲しい物』
それが最後の質問だった
LEOが今一番欲しい物・・・それは去年亡くなった幼馴染の女の子
LEOは迷うことなく書き始めた
『めぐに会いたい』
『よくある自己満足のサイトか』とLEOは思いつつもエンターを押した
再び静かなページになり背景にある画像がパッと表示された
一人の女の子がいる画像・・・いや映像だった
静まり返った夜の街の中こちらに向かって歩いているように見える
LEOの中では『もしかしてめぐ?』なんて気持ちがちらついていた
その瞬間、映像の中心にエンターの文字が浮かんだ
二度と同じ過ちをしてはいけないと
事故だったんだから仕方ないなんて言われると余計に自分のせいにしていた
まだLEOが少年でしかなかった頃のこと
パソコンすら持っていなかった頃のこと
少年には幼馴染みの友達がいた
1人はめぐ
もう1人はあつし
めぐは優しくて大人しいタイプで後ろから付いてくるような子
あつしはよくめぐを苛めていたがいざと言う時は頼りになるタイプ
そんな3人は親同士も仲が良くて心配なことなんて何もなかった
その日はとても暑く近くの川で遊んでいた
そう
いつものように何も変わりなく
ただ一つ違ったと言えばあの事件が起きたこと
太陽を直視できないほど暑く虫たちまで日陰に身を隠したくなるような日
どこからともなく聞こえる風鈴の音もこの暑さではむさ苦しいほど
3人は川の中に足を入れ手で水を掛け合いながら遊んでいる
誰もそんなことが起きるなんて思ってもいなかった
川と言っても作られたものと違って自然な川
流れも違うし深さも違う
川幅もそれなりにあって真ん中辺りでは足も底には着かないほどである
無心で遊んでいた3人にはそれを意識することなどできはしなかった
足を滑らせたあつしは水をいっぱいにもらい2人は笑う
あつしは笑われたことに多少はずかしながらも2人にも同じ事をさせようと川の中に倒そうと必死になったが少年はうまくあつしの手を避けるとめぐとは反対に逃げた
それを見てあつしはめぐを追う
どう見たってめぐの方がのろまであつしにとっては楽勝の相手だった
あつしが追うとめぐも必死に逃げるが次の瞬間あつしの視界からめぐが消えた
自分で転んだのである
「何してんだよー」
「だってー」
自らそうなってしまってはあつしがすることもなくなり残りは少年だけとなった
めぐも加わり2対1の状況
決して遊びではない真剣なあつしの目線が背中に突き刺さると寒気まで感じた少年は川の中心近くにまで気がつかないうちに入り込んでしまった
その途端少年の足は地を離れた
助けようとする2人だが緩やかな流れでもその水より先に行くことはできずにめぐは川か
ら上がり誰かいないか探しながら下流へ先回りを始めた
あつしは泳いで少しずつ少年に近付いていく
泳げない少年はただもがくだけで今にも溺れそうだった
次の瞬間少年に何かがぶつかってきた
温かいぬくもりが伝わってくる
めぐだ
先回りしていためぐが少年のことを受け止めた
しかし岸まで引っ張る力はなく2人とも流され始めた
あつしも体力の限界でなかなか差が縮まないまま流れるままになっていた
冷静になれない少年はただもがくだけで水がめぐまで飲み込もうとしていた
「こんなことになるなんてね
このままだともうすぐ滝だね
みんな死んじゃうのかな」
川の水の音と夏の音で何も聞こえなかった少年の耳に今はその声だけが聞こえてきた
「大丈夫だよ
お姉さんなんだから絶対助けるから
何かあったら怒られるの私だし」
ふざけたように
普段なら笑えたかもしれない
冷静さを取り戻した少年だったが何かできるわけでもなく滝までまっしぐら
2人とも落ちちゃうことなんてないんだ
話すこともできない少年はそう思いめぐの手を払おうとしたが決して離れなかった
「やだ…私はお姉さんだから…岸に上がったら今度は私を助けてね」
そう言うと力いっぱい少年を突き飛ばした
泣いたっていいさ
泣いたって分からない
助からないなんて誰にでもわかってた
力をなくしためぐは1人になっても泳げずに流される
ましてやさっきとは違い流れは何倍にもなっていた
あつしはと言うといつもなら肝心な時にはなんとかしてくれたはずだったのに今回は何も
できない
自分が水から出ることで精一杯だった
出た後しばらく立ち上がることもできなかった
そして立ち上がれた頃にはめぐの姿はとっくに滝の中だった
とても見つけられない事は分かっていた
大人たちを呼び消防へ連絡され大捜索
1日…2日…3日…1週間で捜査は打ち切られた
その後川にはびっしりと高いフェンスが付けられ誰も川へは入れなくなった
残された2人も徐々に会うことが減り忘れようとしていた
「あんたのせいじゃないのよ
仕方なかったのだから」
会う人みんながそう言う
何も言われなくてもそういう視線だった
3ヶ月後少年の家族はその町から逃げるように引っ越しをした
それから幾年か経ち少年はパソコンを買いHPを作り始めた
あの時の色々な感情を受けLEOはエンターの文字をクリックした
するとどうしたことだろう
画面に風が吹き込まれてゆく
部屋の中の物は一切微動だにしないままであるにもかかわらずLEOの体だけが画面に吸
い寄せられて行く
あの時のように
光が消えると何も変わりの無い自分の部屋だった
「これって・・・」
妙に薄暗いと思った
カーテンをしていても昼間なら多少光が漏れているもの
さっきまでそれがあったのに今はそれが全く無かった
LEOは窓に向かって歩き呆然とした
窓の外には街があった
さっき見た街だ
「嘘だろ」
いつもの景色とは全く違いずっと都会で
人や車が多くネオンも見た事もないほどだった
あまり外へ出ることなんてなかったLEOだったが
めぐがいるかもしれないと言う希望だけで外へ出る覚悟をした
その前に着替えだ
本当に自分の部屋なのか確認もしたかったLEOは
恐る恐るタンスの引き出しを開いてみた
するといつもと同じ服たちが詰まっていた
ふぅーっと一息付くと引き出しの奥の方から
服を取り出し着替えをベッドの上に放り投げて
部屋から出た
静まり返った階段、廊下、玄関
夜だというのに誰もいないのかと思いながらも
会わなくて済んだと思い
履きなれない靴を下駄箱から出して
静かに家から出て行った
「夏なのに涼しいんだ・・・」
言葉にしようとしたが続かなかった
『夏なのに涼しいんだ・・・あの日も涼しけりゃ
あんなことにはならなかったのにな』
眼鏡を外して目を軽くこする
ふぅーっとまた1つため息を付いて
勇気を出して歩き始めた
小さな歩幅でもどこかに続いているはずの道を
明るい方へ向かって歩き続けた
車が通るとビクっとしてしまうLEO
人の声が聞こえると何を言っているのか気になるLEO
動くもの全てが恐怖だった
楽しそうに話している人たち
距離があって何を話しているかは何も聞こえない
それでもLEOのとっては
自分のことを言われているかのように錯覚してしまう
『違う・・・違う、俺のことなんて話してない』
そう心で何度も呪文のように唱え続けていたが
それが余計にプレッシャーとして感じるなんて
今のLEOには全く考える余裕なんてなかった
それでもLEOの足が止まることは無かった
どれだけ嫌でも
どれだけ不安でも
どれだけ怖くても
街にだいぶ近づいたのが分かるほど
辺りの景色は変わって夜だと言うのに
人々が虫のように溢れていた
「人の多いところは嫌いだ・・・」
聞こえないように呟くととうとう立ち止まってしまった
「やっぱり無理だ・・・これ以上行ったってどうせ何もない
あれは俺の幻想」
呟くよりももっと小さい声をささやくと
重たい足を180度変えて歩き出した
進むよりずっと楽だった
何よりも一度来た道であるし進むよりはマシである
街の方しか見ていなかったせいか随分と古い家が多い
明かりも消えていて皆寝ているのだろうか
外はこんなにも明るく人が多いのに
突然LEOの足が歩くのを辞めた
というよりも歩くことができなくなった
目の前に人が現れたからだ
えんじ色の髪が強烈なインパクトで目まで赤い
服装だって何十年も前のようにも見えるが
それなりに立派な服装だ
それにしてもついさっきまで確かにLEOの前にはいなかった女・・・
いったいどうなっているんだと思うよりも先に女が口を開いた
「貴方、生身の人間?」
何を言われるかと思ったら妙なことを言う
・・・いやそうでもない
パソコンの中に吸い込まれたのが事実ならそこからして不思議な場所であることは当たり
前だ
なんにしても今目の前にいる女が人間なのかCGなのかそれ以外なのかにはとても興味が沸
いた
「たぶん人間だけどパソコンの画面に吸い込まれた」
正直に言ったものの言った後で後悔した
そんなトンチンカンなこと誰が信じるだろうか
「なるほどな
とりあえず生きているならまだ間に合うかも知れん
さっさと来た所へ戻り元の世界へ帰ることだ」
LEOが来た方向を指すともう一言
「それとも故意にここへ来たのか?」
故意?
それはどういうことだ?
少し不安が増したLEOを凝視し続ける女
見た目通りで気が強そうだ
それに自分に自信がないとこうはならないだろう
LEOがどう答えて良いのか迷っていると再び女が口を開いた
「ここに来ることが可能な者は限られている
もし故意で来られたのなら目的を達することも可能だがこのままここにいれば身が持たな
いだろう」
更にわからなくなってきた
ここにいると命が危険だから速やかに帰れと言われている気がしたが目的がないわけじゃ
ない
もし本当に会えるのなら
「私の役目はそれだけだ
後は自分で決めること」
女は歩きだし街の中へ消えていった
LEOはそれをただ呆然と見ているだけだった
ドクンドクンと心臓の悲鳴が聞こえる
ここにいたらやばいと言うのは明らかだった
まともな世界じゃないんだ
それにこの寒さはなんだ
普段外に出ないからと言ってもこれは夏の夜じゃない
ふとあの時の記憶がよみがえる
真夏の太陽の光が突き刺さるようなあの日
水の中にいた時は凄く冷たくて暑さを感じなかった
あの感覚に近い
冷たい空気が肌をかすめてゆく
誰かが横にいて冷たい息を吹き掛けてきている錯覚すら感じる
体の震えが止まらない
さっきよりも一段と寒く感じLEOはここにいたら本当に持っていかれると感じ走り出した
少しでも早く
元いた場所まで
人がいても車が走っていてもがむしゃらに走り続けた
ただただ無心で
戻って来た頃にはすっかり冬の気分になっていた
どうなっているんだ
というような顔をしながらも階段を上がり急いでパソコンの画面を見た
さっきのアドレスがそのまま残されている
LEOはすぐにクリックして映像が流れるのを待ちエンターを押した
すると眩しい光と共に画面に吸い込まれてゆく
二度目とはいえ現実なのか未だに半信半疑のまま目を閉じ祈った
次に目を開いた時はなんの変わりもない自分の部屋だった
寒気もなくなりカーテンの向こう側も明るい光がうっすらと見える
「帰ってきたんだ」
LEOは窓へ近付くと久し振りにカーテンを開け外の景色を見た
間違いなく現実の世界だ
見慣れない景色だが確かに見覚えのある家があり遠くまで見たことのある景色が広がって
いた
一安心して肝心なことに気がついた
アドレスだ
LEOはすぐにパソコンの画面を見た
そして手慣れた手つきでアドレスをお気に入りに入れカキコしてあった部分を誰が投稿し
たのか調べる余裕もないまま即座に消去した
例えLEOの知り合いが投稿していたとしても何て言えるかわからない
それに残しておいて誰かがクリックでもしたらと思うと複雑な気持ちだった
やっと一安心できたLEOは急にお腹が空いて来た
どうせ昼間は誰もいないことなど知っている
軽い足取りで下へ降り台所へ向かうと冷蔵庫の中をあさる
母親が作っておいた朝ご飯らしき物を見つけるとレンジで温める
その間適当にテレビのチャンネルを変えてゆく
昼近くのテレビにはあまり興味もなく適当なところで変えるのを止めニュースをつけっぱ
なしにして温まるのを待った
目を閉じるとあの女の映像がよみがえる
まず何者なのか
それになぜ新しく来た?のだとわかったのか
長い時間いると大変なことになるようなことまで言っていた
しかもどう見たって昔の服装
まして日本人にも見えなかったのに日本語が上手い
考え出すと謎しかない世界に思えて来た
「チン」
そのまま深く眠ってしまいそうなLEOをレンジが起こした
重たい体を起こすとレンジの中から温まった料理を取り出す
別にいつもと変わらないおかずたち
ウインナーと目玉焼き
それにホウレン草
目玉焼きができた頃に入れたのだろう
目玉焼きにホウレン草がひっかかっている
それもよくあることと全く気にすることもない
普段親は朝パンを食べて行く
それに対してLEOはご飯
だからおかずはいつもこんなものになる
何も用意されていないよりはいくらかマシではある
長い時間かかることもなく食べ終わるとつまらないニュースも消して2階へ戻る
カーテンが開いたままであることに気がつかないままパソコンの前に座る
アドレスが気になったのだ
どこか何かのヒントになるようなものがあるかも知れないからだ
しかし個人のサイトらしくどこかに登録された感じもなかった
続いてサイト自体を見ることにした
エンターさえ押さなければ平気なはずと勇気を出した
再び日本語に設定すると今度は書いてある文章を読み始めた
しかし普通のサイトだ
別に何か特殊なわけではない
誰でも作りそうなサイト
残すはあの映像の出た場所だけだった
再び同じように選択し入力してゆくと意を決してエンターを押した
同じ景色があった
誰かが街の中を1人歩いている
LEOが入ったところに違いないのに映っているのは1人
不自然だと思うも何かのヒントになるかさっぱりわからず一度ウインドーを閉じた
そのまま後ろにあるベッドに横になるとめぐの顔が浮かんで来た
笑ってた
嫌なことがあってしょんぼりしていても
怖いことがあって怯えていても
辛いことがあって泣いていても
何があってもLEOの前では笑っていた
無理していたことは知っていたのに甘えたかった
一人っ子のLEOにはめぐが姉のように思えたから
弱いくせに
本当は無理してたくせに
「もう歩けないよ」
ある日のことだった
いつなのかさっぱり覚えていないしなぜそこにいたのかも知らないけど
「歩けなくても歩くの
男の子なんだから」
道の真ん中でしゃがんだままだだこねてると仕方ないなーって顔してめぐが寄ってくる
「ほら手つなご」
LEOの顔の前にめぐの手がある
優しくて温かい手
遠い昔の記憶を思い出しながらLEOは深い眠りについた
目が覚めると夜だった
昼間の暑さと違い妙な涼しさが部屋の中を包み込んでいる
カーテンが開いている分多少の明かりはあってもこの空間だけ全く別の場所のようにも感
じた
LEOはゆっくり寝返りをうつともう一眠りしようとしたがパソコンの画面が目に飛び込ん
で来て驚いた
誰がしたのかまたあの画面になっている
誰かがエンターを押し中へ入ったのだろうか
家には両親と妹だけしかいない
両親はその日によって帰る時間がばらばらだが妹ならだいたい夕方には家にいるはず
思考の途中でベッドから飛び起き妹の部屋の戸をノックもせずに開いたがそこは誰もいな
い空間
見回すほどの広さもなく絶対にいないことが分かった
そして綺麗に片付けられたバッグと制服が余計に不安を呼ぶことになった
もう一度自室へ戻ると画面を覗き込むように見入った
そこはさっきと同じ場所
妹の姿はないが中にいる気はした
だが入ろうとは思えなかった
どうなるのか結果が見たいと言う気持ちが勝っていたから
帰って来れば何か聞き出せるかもしれないしこのまま行方不明ならこの中で何か起きたと
分かる
最低な考えかもしれないが他に方法はない
それに入ったからって助けることができるかわからない
「何を考えているんだ俺は」
何があるかわからないあっちの世界
それでも助けられる可能性があるなら諦めちゃダメだ
大きく深呼吸をすると再びパソコンの中へと入っていった
「ここは…」
LEOが目覚める少し前
ちょっとした興味本位でクリックしただけだった妹のあゆみ
開いているカーテンの向こうの景色が全く別の世界だとすぐに分からせてくれた
「いったいなんなの
お兄ちゃん?」
振り返ってみたがベッドにいたはずのLEOの姿がない
あゆみは戸惑いながらも冷静
パソコンの前に立つと慎重に操作した
すると光に包まれ吸い込まれてゆく
あまりの眩しさに目を細め光が落ち着いた時は元の場所だった
「お兄ちゃん?」
部屋の中を見回してもどこにもいない
部屋から出る時は限られているが家の中を探しても全く見つけることはできなかった
LEOのベッドに座るとまだ温かい
「やっぱ間違いないよね
それ以外考えられないし」
あゆみの中での結論が出た
中にいるのだと
理由はこのさい意味もないから考えずにいた
新作のゲーム?ってことも考えた
パソコンには疎いあゆみは少し待ってみることにした
再び来たLEO
さっきの帰り際よりずっと温かい
とりあえずあゆみを探すが家の中では見つけられず外にでた
先ほどと何も変わりのない雰囲気
数時間は経ったはずなのにまだ暗いし人がうろうろし車も走っていた
都会はそんなものなのかと無理に理解しようとした
数歩歩いたところで違和感を覚えた
誰かが後ろにいる
家を出た時には近くに誰もいないことを確認していたからありえない
どれだけ速足の人なのか?
速く歩いていたら走るってことだし走っているのなら足音も聞こえたはず
それが直前まで気配すらなく足音も突然聞こえてきた
振り向けば犯人が分かる
人なのかなんなのかわからないが
しかしそんな勇気があるはずもなくただ歩き続ける
少し歩けばいなくなるんじゃないかと多少の期待も虚しく一歩後ろをぴったり歩いている
ような感覚がした
立ち止まればぶつかってしまうような気がして止まることもできない状態である
LEOの額から汗が流れる
温かい夜に冷たい汗
心臓は爆発しそうなくらい強く動いているのが分かる
それでも耳は後ろに集中しいなくなってくれと願う
怖い怖い怖い怖い怖い
怖い怖い怖い怖い怖い
LEOは恐怖のあまり振り向いた
誰もいない
振り向いた途端気配も足音も消え去り
間違いなくいたそれを見ることなく安心するがまた一つ不安になる
いたはずなのにどこへ行ったのか
なんだったのか
ここへ来た時に話した女のことを思い出す
あの女も突然現れた
ここは不思議だらけだ
LEOはもう一度辺りを見回すがさっきの気配はないし自分には無関心と思える人々が会話
をしたり歩いているだけだ
前の時よりは冷静でいられた
理由はわからないがさっきの今だからなのかもしれない
何分歩いただろう
携帯で時間を確認するとさっきから15分くらい経っている
あまり歩かないLEOにはかなりしんどい
ずっと速歩きだったし疲れるのは当たり前と思い少し休憩することにした
近くにちょうどベンチがありLEOは座ることにした
改めて周りを見ると平凡な街だと感じる
家がありコンビニがあり学校もある
人もいれば車も走っているし犬までいる
携帯
誰も登録されていない
かかってくるのもかけるのも嫌
メールすらしない
必要なものを受信するためだけのもの
今思えばあゆみだけでも登録しておけば良かったと後悔する
「あ」
LEOは何かを思い付いたように電話をかけ始めた
しかし繋がらない
「圏外!?」
メールも試したが無理だった
もう携帯も時刻を確認するための道具にしかならなかった
どっちへ向かったかなんて全く考えもせずに街の方へ歩いていたLEOだったが深く考えて
も無駄だと諦めひたすら街の中心を目指して歩き続けた
さっきよりも随分賑やかになり子供まで大勢いる
6時というのが正しいのならまだしもこの時間も怪しいと思いつつできるだけ無関心を装
い歩く
日本人ぽい人
アメリカ人ぽい人
アフリカ人ぽい人
いろんな人がみんなして日本語だ
ここがパソコンの中ならそんなに不思議じゃないがありえない
どうしたらパソコンに入ってこんな状態になるか
聞けばわかるかもしれないことだったがどう見ても場違いな質問に思えた
あの女の言葉からしても聞いて良いかどうかくらいは判断できた
歩いているとコンビニから数人が出て来た
ちらっと見ると売っているものが見えた
いたって普通のコンビニらしい
お金は多少あった
何を買うというわけもなく1年振りくらいのコンビニに入った
入った途端にいらっしゃいませとやかましい店員
無視してまずは雑誌を見た
日付けを確認したかった
見事に今日の日付けが記されている
日付けは正しいのに時間帯がおかしいのだろうか
コンビニの外はいつまでも暗い
他に確認するものも思い付かずコンビニを後にすると何も買わないのに店員はありがとう
ございましたとやかましかった
「心の中じゃ買わないなら来るなとか思ってるんだろうな」
なんてぼやきながらまた街の中心へ向かって歩き始めた
中心に近付くにつれ中心だろうと思う場所に高い塔がどんどん大きく高く見えるようにな
る
高さがわからない
周りとはまた雰囲気が違って異様な明るさだった
てっぺんがどこなのかわからないほど高くこの空に天井があるなら突き抜けていそうなほ
どだった
首が痛くなるほど上を向いたLEOは首を戻すと大きな溜め息をついた
そこに何があるかなんてわからないしあゆみがそこにいる可能性はあの慎重な性格からは
ありえないと思ったがLEO自身行けば何か見つけられるような気がしていた
暗い天空の更に上まであるだろう塔
そこまでいけたら何かあるという期待も膨らんだ
塔の目の前まで来たが誰も入って行く人はいない
明かりだけが付いていて中も人がいるということを確認することができない
ぞろぞろ人が出入りしているのなら入りやすいがそうでないとなかなか入りづらい
誰か一人でも入って行くか出てきてくれればと思うが数分経っても誰も近寄る人すらいな
かった
ここまで来て戻るもの面倒で周りを気にしながらも入っていくと
中はとにかく広かった
何階まで吹き抜けなんだろうかと思うほどずーっと上まで天井が見えない
別に何も無いわけではなく壁に沿って色々なものがあるようだった
店もあるし住居もあるみたいだった
しかしこれだけ広いにもかかわらず
しーんと静まり返っている
誰もいないのだろうか・・・
そんな気持ちになってしまうほど
見た目とは正反対の印象だった
とりあえず店らしき建物の前まで行ってみたがやはり開いていない
電気はついているし戸もあいているが店員もいないし客もいない
まるで人だけが消えてしまった街のようだった
ぽかーんとしていると不意に声をかけられた
「二度目だな・・・」
えんじ色の髪に紅い目の女
間違いなくあの時の女
無視するわけでもなく返事をするわけでもなく
頷いただけで女の方からまた話し出す
話し相手がいないのかも・・・
「ここまで来たということは行くのか?」
話が見えない
が、なんとなくわかる気がした
「たまにいるが何も知らずにここまでこれたというのか、こんな・・・」
ガキが・・・とでも言いたそうな顔だった
「悪かったな」
「なんだ、話せるんじゃないか
貴方、名前はなんと言う?」
LEOが名前を名乗ると女もやっと自分のことを話し始めた
「私はレイン
ここを知らないようだから1つ言っておく
ここは現実であり幻でもある場所
真実と偽りは常に共存している
見えるものが全てじゃない
見えないものが存在しないわけじゃない
取り戻したものがあるのなら・・・
願いがあるのなら扉を開くが良い」
レインと名乗った女が手を高く上げると空間に扉が現れた
それはどこにも接しておらず宙に浮いている
「レイン・・・君はいったい」
それ以上言う前にまた話し出す
「そうね、私は言うなれば人間でありここの住人
どっちで生まれたかなんて事は忘れてしまったけど
少なくとも昔は・・・」
言いかけて辞めてしまった
LEOが改めてレインの顔を見ると
目が強く光っている
「何が起きているの?」
「心配するな、いつものことだ・・・すぐ良くなる」
しばらく黙ってしまったレイン
その間ずっとレインの顔を見ていた
なぜか分からないが
久しぶりに話したい気分になっていた
どれだけ話しただろうか
時間が経っても何も変わらない空を背に
少しだけ心を開いたLEO
レインという人がとても似ていると思った
だからなのかLEOはいつまでもこのままでも良いと思った
うるさい人もいない
作る必要もない
自分のままでいても良い場所に見えてきた
あの時のように
少し時間が過ぎてあゆみのことを話してみた
「私の見ていた限りでは見てないな
恐らく来たとしてもすぐに戻ったのだろう
そんな奴等が大勢いるのさ
そういう奴等は二度と自分ではアクセスしてこれないだろうけどね
さてとLEOの願いを叶えるのに私も付き合うからさっさと行こうか」
「はあ?」
よくわからない
そんな顔をしてやるとクスリと笑って答える
「理由は簡単さ
ここに長くいるとそれくらいしかないんだよ
別に自分の望みなんてないしさ」
何はともあれ偽りだとしても1人よりはマシだった
階段はぐるぐる螺旋を描いて塔の外回りぴったりにどこまでも続いている
「なあ、レインは頂上まで行ったのか?」
「まさか、今まで辿り着けた奴はいないよ
私が付いていった奴はね
あんたが最初かもな」
レインの目が一瞬冷たい視線に変わった気がした
塔には別に何もなくてただ上へ行けば良いだけらしい
誰もいないし何もない
「なら、なんでみんな辿り着かない?」
「簡単さ、落ちたり消えたり歩けなくなったり色々さ」
やっぱり何か隠してる
疑いながらも言いたくないまたは言えない理由があるはずだから聞かずに様子を見ている
ことにした
一回りするのに1時間
広い塔だから覚悟はしていたがこれではまるで進めない
「どうした、もう辞めたくなったのか?普段歩いていないのが仇になったな」
「レインは随分余裕だね
何も疲れてないみたいだ」
やっぱり人じゃないのかも
なんてことは言えずに休憩することにした
「街にはいっぱい人がいたけどあれはみんなこっちの人ってこと?」
「ほとんどそうだろうね
あんな場所に生身で居続けたら身が持たんよ
移動し続けないと得体の知れない者に狙われるかもしれないからね」
あの時後ろに感じた奴のことかも知れない
「ここはね、時間の流れがおかしいのよ
空はいつまでも暗く
ここならいつまでも眠くならないお腹だって空かない」
「なあ、それ分かるってことはやっぱ人なんだろ?ゲームとかじゃ飯も睡眠もなしにずっ
と戦うとかあるしな」
「そうなのか」
「だったら良いな」
「人だと何か良いことあるのか?辛いし痛いし悲しいし悪いことばかりだからここへ来た
んだろ?」
「それが正しいのか間違いなのかは知らないけど良いこともあった
失ったものはいっぱいあるけど…」
めぐ
最初入ったのはめぐを見つけられそうだったから
こんな世界があるんだから何が起きても不思議じゃない
「過去の過ちをリセットしてもう一度
みんなそれだ
この先にはいくつか試練がある
超えられなければ下に戻される
私は見ているしかできないだろうけどな」
なぜさっきは言わなかったのに今答えたのかわからないが先を急いだ方が良いなんてはぐ
らかされて歩き出してしまった
どれだけ歩いただろう
下に見える地上が少しずつ小さくなってゆく
そして目の前には突然現れた老人
これが試練?
老人は恐らく人じゃない
こっちの住人だろう
年も外見も何でも自由好きなことだけやってきた感じに見える
「あのー通りたいんですが」
話し掛けても何も返事がない
レインの顔を見ても我関せずと言った感じで口笛なんかふけないくせに形だけであからさ
まだ
「見えないのにどこにでもあるものとはなんだ」
「へ?」
色々考えていた時に老人が何か言ってきた
「こいつは謎なぞが好きなのさ
答えられれば通してくれる」
見えないのにあるもの
確かそう言った
そんなもの無数にあるじゃないか
あれもこれもと考えるほどに増えていく答え
こんなにいっぱいあるんだからなんでも良いのか
けどそれならそんな問題出すわけないし
しばらく老人を見ていると
まるで寝ているみたいだ
「空気・・・」
ボソっと言葉が自然と出た
すろと目の前の老人はそこにいなかったかのように消えていた
「答えなんかあるわけないのにな
あいつは毎回こういうことしてるんだ
始めから何かする気もないから良いんだが
この先何人いるのか知らんが出来ないこと要求するのは禁止だから安心しな」
何か機嫌が良い
答えられないとでも思っていたのだろうか
ちょっと気分を良くしたLEOが進もうとすると天から
1つの紅い宝石のような物が降りてくるのが見えた
「なんだ、あれ」
LEOが言うとレインは目を向けた
納得したように一言
「試練をクリアするとあいつらがくれるのさ
こっちの世界じゃあれが命みたいなものさ
なくさないようにすることだね
半分は私がもらっとくよ
何かあれば1度だけ助けてやろう
それで良いだろ?」
そういうことだったのか
つまりこっちの世界では何も食べなくて良いし
寝ることも必要ない分この紅い宝石が必要なんだ
その紅い宝石はruby
手に取ると温かい
ほんの1センチくらいの大きさなのに
とてもとても眩しかった
宝石の名前なんてあまり知らないし興味なんてなかったがその石を見ていると落ち着く
真ん丸の紅い玉
ちょうど飴玉くらいの大きさで飴玉だと言われたらそのまま食べてしまいそうなくらい
だった
「それ、食うなよ」
苦笑いしながらLEOを見て言う
食うわくないだろって顔しながら大切にポケットにしまうとさっさと歩き出す
「何やってるのさ
早く来ないとおいてくぞ」
ぎこちなく言うとこらいきれなくなりレインはププッと口から笑いをこぼす
「そんなに笑うなよ
まだ食べてなかったじゃない」
「まだ?やっぱ食べる気だったのか」
しまったって顔して口がポカーンと開いている姿はただの間抜けな奴にしか見えなかった
だろう
「それにしたってどこまで続いてるんだ、この塔」
「これも偽りさ
疑似空間でしかない
鏡みたいなもんさ
合わせ鏡にするとどこまでも果てしなく見える
あれに似た空間なのさ」
そんなことしたことのなかったLEOは頭から煙が出そうになっていたが見た目よりは高く
ないと分かっただけで良かった
休憩も十分に取った2人はどちらからともなく再び頂上に向かって歩き出した
いくつ試練を超えただろうか
みんな子供がするようなゲーム感覚
ゲームなら散々してきたLEO
次々と調子を上げてゆく
「もう6個も溜まった
いったい何人いるんだ」
「その時によって違うし知らないよ」
6個も集まるとますます明るさが増している
「そういえばいざと言う時は助けてくれるって言うけどレインは何ができるのさ?」
「私か?そうだな先に見せておくべきかも知れん」
そういうと両手を前に出し剣を握る構えをした
するとどうしたことか
そこには何もないはずなのに徐々に剣が姿を現す
「これが私の取り柄だ
つまりそういう相手なら私の方が可能性はあるわけだ」
「なるほど…」
そんな相手がいたら本当にゲームじゃないか
「いきなり剣を出したのに驚かないのか?」
「そんなの今更だろ」
あっけなく返してやると
なんだよ、つまんないな
って顔して剣をしまう
「そんな顔するなよ」
なんだか無邪気な子供に見えた
更に先を急ぐといきなり視界が広がった
「なんだいきなり!?」
「頂上?」
2人はあまりに突然のことに話す言葉も見つからないまま唖然とした
そこには誰もいないし何もない
真っ暗に近くてあまり見えないが
気配もないし声も足音もない
「まさか何もないとか?」
「そんなはずはない
確かにいるはずなのに」
しばらく沈黙する2人
すると突然光が見えた
その光は紅の光
ポケットの中のあの宝石が光を自ら放っている
一直線に伸びる光は何かを照らしている
「何かあるかも知れない」
レインが言うとLEOに行くよう促す
暗がりを一歩一歩進んでゆく
紅の光はある場所で切れていて不自然な形になっている
「何もない?」
「ないから不思議なんじゃない
勝手に光が消えてる
ここだけまた別の世界になっているような感覚ね」
さてどうする?
って言いたそうな顔
そんなこと言われてもすぐには決められない
この先にいけば何かが変わるような気はしたがそれが何か分からないなら決断は簡単にで
きなかった
LEOが迷っていると遠くから何かが近寄って来る音が聞こえた
「なんか来るよ
それもかなり多い」
「どうしよう?」
不安そうな顔で聞くとレインまてそんな顔をした
「私に任せな
あんたは自分でそこに飛び込むんだ
何が1番なのか良く考えるんだよ
運命は変えられないけど未来はまだ先の話なんだ
あとのことを考えすぎると何もできやしない
頑張るんだよ」
それだけ言うと剣を持ち何かがいる方向へ走って行った
「待って…」
もう遅かった
レインはもの凄い速さで駆け抜けて行った
1人残されたLEOはレインのことを考えた
出会って数日
何かしてあげたわけじゃない
確かに命とも言えるあの宝石は半分あげた
けどそれだけ
何がいるのかもわからないところへなんか行けるのか
命を落とすかもしれないのに
適当に集めたら帰れば良いのに
LEOが今一番したいこと
そのためにLEOはここに来たはず
めぐにもう一度って願ってここに入った
一度だけ助けてあげる
って言ってたことを思い出した
その途端走り出していた
間に合うかなんて知らない
ただ何もしないよりは良い
二度と同じことを繰り替えしちゃダメだ
音がする方向へとひたすら走る
近付くなつれ奇妙な声と肉の切れる音
血が飛び地に落ちる音がする
レインがいた
「なんできた?
意味ないじゃないか」
怒ってる
なのに泣いてた
いや血だ
目から大量に出ている
「一度しかできないからじゃないのか
無理なら無理でいいだろ
なんで俺を不幸にするんだよ
そんなのダメだ
いっしょに行こう」
狂った得体の知れない生き物が無数に2人を襲う
レインは躊躇することなく剣を奴等に向け振りおろす
妙な生き物たちは無残に飛び散るがいつ受けたのかレインも傷をおう
倒せば倒すほどレインの傷は増していく
レインは全て避けることなく叩き潰し続けた
俺が負担になってるから避けないで正面から受けているんだ
何しに来たんだ
レインは俺が邪魔だからああしたんじゃないか
何も知らない俺はやっぱりダメだ
『また諦めるの』
誰の声でもない心の中の叫び
何もできない
やっても意味がない
なんになる
苦しいだけだ
逃げたら楽になれる
いつも弱気だった自分が邪魔をする
いや自分の中に生き続けているあいつの声
自分のせいで亡くなった
そして今まであいつのせいにして生きてきた
『また繰り返すの?』
「そんなのやだーーー」
その時、LEOの中で何かが弾け飛んだ
それと同時に全てが終わった
辺りは一瞬にして暗闇から光へと変わりあの生き物も消え2人だけが残された
「レイン平気?」
「平気…なわけないだろ
何してくれてんだよ
せっかく私がみんなやっつけて…」
声が止まった
いやそうじゃない
もう喋らなくて良い
そっと触れるのを辞めると
二人ともしばらく無言になってしまった
辺りが明るくなり全てが見えるようになったからだ
天空にもっとも近い場所
こんなに高いところなのに
そよそよと緩やかに吹く風
太陽が眩しく2人を照らす
そして7つ目のrubyが舞い降りてきた
ゆらゆらと降りてくるそれをLEOは受け取ると
凄まじい光に包まれていった
一瞬にしてその場から消えたLEO
1人残されたレインは何も言わずにしばらく立ち尽くしていた
一方突然飛ばされたLEOは
あの場所にいた
あの暑い夏の日
そこには自分がいてあつしがいて
そしてめぐがいた
まだLEOが溺れる前だった
今なら助けられる
と、向かおうとしたが足が動かない
どれだけ力を入れても
それ以上に強い力で動きが取れない
『君は助けにはいけない
過ぎてしまった過去は取り戻せない
だがそれを見ることは出来る
辛くても見ていられるのなら…』
空から誰かの声
果てしなく遠くからかもしれないし
すごく近くなのかもしれない
おそらくLEOをここへ連れてきた者
黙っていたら何も出来ないんだ
あの時もう少し勇気があれば
あんなことにならなかったのに
なんで…
そうこうしているうちにとうとうLEOが溺れ始めた
実際に見ていると情けない自分だ
あのせいで1人大切な人を失った
後悔しても仕方がないとは言え
人生最大の出来事をあんな小さな時に体験してしまったのだ
LEOはどんどん流されここからでは見えなくなりそうだった瞬間
場所が勝手に移動し滝の目の前だった
ドキンとした
間違いないあの滝だった
引っ越して以来きていなかったがはっきりと覚えている
何日も何時間もここにいたんだった
見つからないのにずっと
ゴーっという滝の音
小さな人が落ちてくる
とっても小さくて落ちてしまったらそのまま砕け散ってしまいそう
そんなくらい滝の中では小さく見えた
それでもまだ生きているのが見えた
『今度はどうする?』
またあの声だ
「見ていることしか出来ないなんて嫌だ
こんな運命なら俺が変えてやる」
とうとう強い気持ちがLEOを吹っ切らせた
足の重さは消え自由になった
そして躊躇せずに滝の中へ飛び込んだ
未だに泳げない
それどころかあれから水が嫌いで
水の中で目も開けられないLEO
必死に落ちてくるめぐを受け止めようと
滝へ近づこうとするが押し戻されるだけで
全く進めない
『どうした?
お前の力はここまでか?
失ったのもを取り戻すこと
それはとても大変なこと
それをお前にできるのか?』
弱気になるな
自ら目を閉じ動きを止めた
するとどうしたことか
LEOの体は流されることなくその場に留まった
そのうち体が軽くなりとうとう水の上へと立った
素早く1歩2歩
滝の目の前でLEOはめぐを受け止めた
既に意識はなく…
本当ならこのまま…
『これで過去が変わり未来が変わる
だが歪みは正しく補正しなくてはいけない
君には悪いがその子は試練を超えなければ
この世界には戻れない』
「何だって!?」
再び身動きが取れなくなった
めぐが手から離れ空中をゆっくり飛んでゆく
「やめろーーー」
声も出るし意識もはっきりしているのに
全く動けない
「くそーーー」
『安心しろ
この子とお前は永遠だ
紅の目の者たちがいる限り…
今は一眠りしなさい
目覚めればいつもの朝が来る』
「待ってくれ、紅の目ってレインのことか」
返事のないままLEOは深く眠りに落ちていった
やがて起きるといつもの朝…
あゆみがなぜかベッドにもたれて寝ている
「おい、あゆみ
何してんだ?」
「ん…あれ、なんでここにいるんだろ?
あーーーーーーもう7時じゃん
早く支度しないと
じゃあね、お兄ちゃん」
いつも慌しい妹
なぜかそれで丁度良い
LEOは窓を開け外の空気を部屋の中に取り込んだ
強い風がいっぱい入ってきて
今まであったいらない空気を
全て捨てていってくれたようだった
ふと見たパソコン…
画面には『END』と書かれていた
「終わっちゃったのか…」
ポツリつぶやく
久しぶりに早く起きたLEOは
あゆみが学校へ行く前に外へ出た
朝の外なんていつ振りだろうか
明るい太陽がLEOを刺すように照らしている
別に行くところなんて決まっていない
適当に歩いてすぐ帰る予定だった
しかしめぐのことを考えると…
それに1つの結論に達したからだ
レイン=めぐじゃないか
時空を超えてあの時へ行って助けた
めぐはレインとしてあっちの世界で生きていた
記憶をなくして1人で…
もう一度行けばまた会えるかもしれない
そうも思ったがあの声の主がそれをさせないだろう
その場に落ちている石ころを蹴ると
石は蹴った方向へなんて飛んでゆかずに
あっちこっちへと飛んでゆく
「あはは…」
俺は今まで何してたんだ
石ころでさえ自由に歩いていってるじゃないか
あいつがめぐだったとしたら
いつかきっと帰ってくる…
そう信じて
それまではもう絶対に泣かない
ポケットの中の7つのrubyに誓って…