アーリンがいない?
どういう事だろう。
あれだけ完璧なアーリンが迷うわけ無いのに…。
月明かりに照らされる山道を私は探しに出るが
見晴らしの良いここにアーリンの姿を見つける事は出来ない。
たまには外に出たらっていうニア兄さんの考えで
私とアーリンは近くの山登りにきたが大変な事になってきた。。
山の途中にある山小屋で1泊して山頂まで行き
帰りも同じ場所で1泊の予定で山へ入ったのだが
山小屋までは来たはずなのに
一緒に寝たアーリンがふと起きると横にいなかった。
寝ぼけてどこかへ行ってしまったに違いない。
そう思ったリアが今山道を探している。
静かな山。
夜になると動物もすっかり休んでいるらしい。
夜行性の鳥たちの囁くような動きだけが聞こえる。
山道から少し山の中へ入っていくと水の流れる音が聞こえる。
その方向へ誘われるかのように足を進めると
そこにアーリンの姿があった。
すぐにその場へ行こうとしたがリアは立ち止まった。
アーリンが泣いている。
いつの間にかまた伸びてきている髪を
全部下ろしたままにして
背中を丸めて流れている水に自分を映しているのか
じっくり水面を見ながら周りなんて気にしないで
無心で泣いている。
「アーリン…。」
いつも一緒にいたのにアーリンの事全然知らない。
アーリンの事もっと知りたい。
そんなに年も変わらないのにずっと私たちの世話なんかして…
どういう生い立ちなんだろう。
なんでうちで働いてるんだろう。
アーリンの家族ってどんな人だろう。
聞いちゃいけないとは思わないまでも
なぜだか聞いてはいけないような気がしていた。
「どうして…。」
!?
アーリンが独り言?
見つかったのかと思って少し後ずさったリアだったが
独り言だと分かるともう一度近づく。
「なぜあの時助けてくれなかったの。」
あの時?
助けてくれなかった?
いつの話しなんだろう。
「兄さん…。
今でも私を探してる。
ばっかみたい…。
こんな近くにいるって言うのに…。
結局まだ私は兄さんを縛ってるだけなのかな。」
兄弟いるんだ…しかも近くに?
どうして会ってあげないんだろう。
喧嘩でもしたのかな。
「本当…いつまでも消えない。」
何やら手首を押さえている。
何が消えないんだろう?
もう少し前へ…。
ガシャ
「誰!?」
アーリンが怖い顔をして振り向いた。
「お嬢様…でありますか。」
怖い顔はあまり変わらない。
やっぱり聞いちゃまずかったかな。
「全部聞いていたでありますね。」
私の表情を見てそう感じたらしい。
嘘はよくない。
「うん。」
「そうでありますか。」
アーリンは自分の体を確かめるように触っている。
そして何かほっとした感じになると
ようやくその場に座った。
「お嬢様もこちらへ。」
促されてアーリンの横に座る。
「どうしたの、アーリン?」
もう泣いて無いけど泣いていた痕が目に残っている。
私にも話せないことなのかな…。
「お嬢様は私の事好きでありますか?」
本気でどきどきした。
アーリンが真面目な目でまっすぐに私を見て言ったのは
さっきの内容じゃなくて告白!?
「す、す、す、好きって?」
「え…違うであります。
あの、その…。」
可愛い。
こんなアーリン初めて見た。
いつも冷静でお姉さんみたいだったアーリンだけど
私よりも年下なのかもしれない。
「アーリン。」
私がアーリンを抱きしめると、
アーリンもそっと抱きしめてくれた。
「温かいであります…。」
なんだか不思議な気持ち。
本当にお姉ちゃんみたい…。
「アーリン?」
また泣いてる。
どうしちゃったの。
アーリンのすごく華奢な体の1つ1つが小刻みに揺れている。
こんなアーリン本当に見た事ない。
私はどうしたら良いの。
ウォーン
不気味に響く低い声で何かが吠えている。
「お嬢様。」
いつの間にか泣きやんでいるアーリンが
私を後ろへ下げると戦闘体制にはいる。
「アーリン?」
アーリンの見る先から何かが降りてくる。
大きな白い犬?
それに誰か乗っている。
!?
あれはあの時の天使。
なぜここに…私を追って?
「逃げるのであります。」
アーリンは私を突き飛ばすと力を解放して飛んでいく。
リバースあれって。
『ああ、あの時のパームってやろうだな。
あの勘違いやろう、わざわざここまで追ってきたのか。』
リアも力を解放してアーリンを追おうとする。
『待て。
行っても何も出来ないだろ。』
その通りだ。
私なんか行っても足手まといになるだけ。
かえって邪魔になるからアーリンは
私を置いて行ってしまった。
見ているしか出来ない。
戦いの展開はよく見えない。
リバースどうなってるか見えてる?
『あ、ああ…。
見えてる。
見えてるが…あれはなんだ。』
!?
『あの女…何者なんだ。
あれはまるで俺たちと同じじゃないか。』
!?
『あの仮面。
見えてないのか?』
仮面?
見えてない…。
『ありゃ俺らと同じだ。
自分の意思で呼び出しているみたいだけどな。』
どういうこと?
『俺らが表に出るとああなる。
ああなってしまえば元がなんなのかは分からないが
間違いないな。』
確かにいくらなんでもすごすぎる。
何度もアーリンを見てきたけど
今回は影がうっすら見えるくらいしかない。
『だが、まずいな。
あんな無理な動きしてたら長くは持たない。』
リバース…。
『おいおい、泣くなよ。
出来る事はしてやるさ。
せめてあの犬くらいはどけれればやりやすいはずだ。』
言い終えると私はリバースに体を譲った。
リバースになった途端すぐに2人のもとへ向かうと
即座に白い犬を攻撃する。
「お嬢様!?」
話している暇はないと言わんばかりに無視して
犬の方だけを攻撃し続ける。
『なんて硬い犬だ。
仕方ない。
消耗してでも…。』
リバースは力を溜めて一気に放出すると
犬がようやくパームから離れた。
そのままリバースは犬だけを狙いパームから遠ざけると
アーリンの手助けに入る。
最強とも言えるような2人にとってはパームも敵ではない。
圧倒的になり始めるとパームは退却した。
「貴方、リアじゃないわね。」
「なんだ普通に喋れるんじゃないか。
いつもおかしな言葉遣いだったからびびったぜ。」
「答えなさい。」
「ああ、そうだ。
あんたと同じだ。
こう言えば分かるかい?」
「そうか。
呪いはどこまでも引き継がれるのか。
用が済んだらリアに戻ってくれない?」
「ふん。」
「ん…。」
「なぜ言う事を聞かなかったでありますか?」
「アーリン?」
「天使や鬼は並外れた力を持っているのであります。
むやみに挑んではいけないのであります。」
「アーリン…貴女はいったい何者?」
「…何者か。
それを聞いてどうするのでありますか?」
「アーリン…。」
それ以上会話にはならなかった。
それから山頂に着くまで全然会話らしい会話もなかった。
「私の正体知りたいでありますか?」
「知りたい。
そう思ってたけど…アーリンはアーリンだから。」
「そうでありますか。
じゃあ言うの止めたであります。」
「ええ…言う気なら教えてよ。」
「もう遅いのでありま〜す。」