そこは何もない空間。
ボーダーとは違って白い空間ではなく
光の射さない真っ暗なだけの空間。

黒以外には何も見えない。
音も無く
匂いも無く
何かに触れている感覚もない。

歩いているのかさえ分からない。
アリスはどこへ行ったのだろう。

『覚えていないのか。』

!?
聞こえる。
アクアの声だけは聞こえてくる。

『ここはお前の生まれた場所。』

またそれ…。
私には実感がない。
人じゃないと言われても両親もいた。

『そうだな。』

両親は優しかった。
けど、変わってしまった。

「お前のせいでね。」

!?
アルシェリルの声がする。
どこからか分からない。
直接、心に話しかけるように
耳にはその声が届いて来ない。

私のせい!?

「魔にならずに人となる事を選んだお前は
あの2人のもとに生まれてしまった。
だから魔にならずに今まで…。」

その記憶はさすがにない。
私の記憶は優しい親の記憶と
そうじゃなくなった記憶…。

「せっかく、魔の者を送ってまで覚醒させようとしたのに
逆効果になって二重人格なんかにはなるし
魔の部分は完全に隔離されるし
とんだ出来損ないだよ、ノエル。」

…。

『どうした、ノエル。』

…。

暗闇の中を真っ黒な光が進んでくる。
目には見えないがその動きが微かに伝わってきた。

アルシェリルがいる!?

とっさに冷気を集めようとしたが集まらない。

!?

何かに殴られる。
が、そんなにダメージはない。

今のって何!?
なんであんな弱いの…。

不思議に思いながらも微かに感じる気配に
集中するが完全にはとらえきれずに
少しずつ体力を削られる。

『様子がおかしくないか?
なんでしょぼい攻撃ばっかりなんだ。』

さあね。

それでも必死に堪えるしかないノエル。

仕方ないな〜。

ノエルは動きを止め地面と思われる場所に手を付けると
そのまま攻撃されるのを待ち
攻撃を受けた瞬間その手を押し当てるように反撃した。

ダメージはないが確かに触れた感触はあった。

「誰か分からないけど終わりよ。」

響かない声を言ったつもりになりながら
手を合わせ念じた。

すると動きが止まったようで気配が動かなくなった。

ノエルは微かな気配を追ってその場へと向かった。

『いったい何をしたんだ?』

血。
血をあいつに付けただけ。
後は凍らせて突き刺す。

『なるほどな。』



やっとのことでたどり着いたが触ってみても
見えないものはどうしょうもない。

ここから出る事は出来ないの?

『さあな…さっきのしてみろよ。』

さっきの…っていうと。

ノエルは左手を振り上げて下ろしてみた。
すると次元が裂けあっちの世界が見える。
すぐに小さくなりかける次元の穴に手を掛け
とりあえず倒れているアルシェリルを引きずって
外へと出た。




!?
アルシェリルじゃない…
アリス!?

そこにいたのはアルシェリルではなく
アリス。

どういう事。
操られていたの?

『違うな…あいつの気配が何もない。』

気を失っているアリス。
手加減なんてしなかったせいか
かなり出血している。

幸いあの空間が綺麗な場所だったのか血は止まっている。
ノエルはすぐに冷気で患部を冷やして
アリスの目が覚めるのを待った。




「ぅ…。」

「アリス!?」

「!?」

なぜか警戒するアリス。

「どうしたの?
大丈夫?」

「どうして皆を殺したの?
ノエルは悪魔なの?」

!?
言葉が見つからない。

「どうして…答えてくれないの?」

アリスの目を見れない。

アリスは私の手を離れ構える。

「答えてくれないなら…。」

まだ立っているのがやっとなアリスが
側に落ちていた鋭いガラスの破片を
握り締めノエルの太ももを突く。

「ぐっ…。」

「!?」

避ける事もせずに刺さってしまった
ガラスの破片をその場に落とすと
どうして!?って顔をしている。

「ノエル…?」

「殺して。」

笑顔で答えるノエル。

「何言ってるの!?」

「殺しなさい。」

両手を広げてアリスの攻撃を待つ
その姿は何の迷いもない。

「…。」

血まみれになったアリスの手から
ガラスの破片が地に落ちた。

「出来ないよ…
出来るわけないよ…。
本当にそうだとしても私を救ってくれたのはノエルだから。」

「アリス…。」

力が抜けたのかノエルが地にひざまずく。

「ノエル!?」

ノエルは駆け寄るアリスに抱きかかえられながら
とても幸せな気分になっていた。



「それが限界か。」

ようやく姿を現したアルシェリルは余裕な顔をしている。

地に降り立つ事なく
宙に浮いたまま稲妻を発動させてきた。

「アリス逃げて。」

ぶんぶんって首を振りながらノエルに抱き付いて
離れようとしないアリスをノエルは力いっぱい突き飛ばした。

「さあ、アルシェリル私を殺して
さっさとここから消えて。
あの子には関係ないでしょう。」

「まあ、私も悪魔ではない。
失敗作を消せれば良いでしょう。」

力いっぱいに蓄えられた稲妻がノエルへと
向けられた。


「なんだ!?」

アルシェリルの力いっぱいに放たれた稲妻を
何かがはじき返した。

「アリス!?」

見るとそこにはアリスが立ち上がり両手を突き出していて
手は真っ赤に血だらけで湯気が出ている。

「ノエルは私が守る。」

そう言うとアリスが手に炎の弾を作り出し
アルシェリルに向かって放つ。

片手で受け止めるアルシェリルだったが
はじき返せずに両手でようやくはじき返すことが出来た。

「なんという力…。」

呆然とするアルシェリルに対して
何発も連発で発動するアリス。

優位に見えるアリスだが既に限界は超えている。
手はもう感覚が無く精神力だけで
撃ち続ける。

徐々に弱くなるアリスの攻撃にアルシェリルは反撃する。
避ける事なんて出来ないアリスは吹き飛ばされるが
それでも立ち上がり撃ち続けるしかない。

アリス…。
私がなんとかしないと…。

必死に立ち上がろうとするが
さっきの傷で立ち上がれない。

また見殺しにしちゃう…。
このままじゃアリスも守れない。

『私と変われ。
アルシェリルは私が壊す。』

駄目。
絶対に貴女にはさせない。

『何こんな時に言ってる。
あいつもお前も殺されるぞ。』

させない。



徐々に追い込まれるアリスを見ていたノエルが
再び覚醒した。


その姿は死神。
巨大な鎌を持ち、
黒いコートを身にまとっている。

その鎌の柄の方には鎖が付いていて
その先にはトゲトゲの付いた
鉄球が付いている。

「ノエル!?」

「完全に覚醒してしまったか…。」

「…。」

ノエルは2人に向けて鎌を振り切った。



遠くからだったにもかかわらず
その鎌から出た閃光は2人を包み込んでいく。

「ぐっ。」

「きゃっ。」

2人はその閃光に吹き飛ばされると
ぼろぼろになっている。

しかし、ノエルは無表情のまま
アルシェリルに閃光をひたすら浴びさせる。

無数に浴びさせられるアルシェリルは
閃光が止むと跡形も無く消え去っていた。





ノエルはそこでは止まらず
アリスのもとへと行くと
その閃光をアリスへと向けた。

アリスは1歩も動けずに閃光を全て受ける。
次第に辺りが粉塵で見えなくなると
閃光が止みアリスが見えてきた。

「我を忘れているの?」

明らかにアリスではない誰かが話しているが
ノエルは無心。
まったく気が付かなく
生きている事を知ると再び閃光を浴びせるが
今のアリスには効かない。
右手を閃光に向けると炎の壁が現れ
その閃光を全て遮断する。

貴女は誰?

心の中でアリスが聞く。

「私は貴女を守る者。
アンテラとお呼び下さい。」

アンテラ…。
なんだか分からないけどノエルを助けて。
お願い。

「御意。」

アンテラは両手で何かの呪文を唱えると
結界を作りだしそれでノエルを取り囲む。

暴走しているノエルはその中で
暴れ動き回るが決して出られる事はない。

アンテラはそのまま
その中にいるノエルに向かって炎を投げ込んだ。

炎の結界の中で爆発した炎の弾は
ノエルを完全に巻き込み大爆発を起こした。





「ノエル、大丈夫?」

まっさらになった台地に
すっかり静まり返った2人がいる。

アリスがノエルを膝枕している。
疲れ果てたアリスだけどノエルが目を覚ますまでは
絶対に起きてるって気持ちだけで頑張っている。

「ノエル…。」

「う…。
あたま…痛い。」

「ノエル!?」

気が付いたノエルに飛び込んでいくアリス。

「ちょ…。」

「良かった、良かった。」

大泣きしながらノエルに飛びついて離れないアリス。

「心配したんだから…。」

「…。」

はっきりとは覚えていない。
あの力はアクアのものでもない…。
私の本当の力!?

助けたいって思うとリアの時も力を貸してくれた。
けど…今回は…。
私の力が足りないから暴走したの!?
けど、今はそんな事どうでも良いや…。

こんな可愛いアリスが側にいてくれるんだから。





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