「愛売ります」

貴方はそんな言葉聞いた事ありますか?

もし言われたらどうしますか?


貴方には心ありますか?




大切な事

きっとある

そこには見えない気持ち

そして見せられる形

あなたは何を思いますか?




何もないなんて言わないで
君にはまだこれからいくつもの希望が待っているから。

全てを終えたらここで君を待っているから。 





遠い日に出会えるかもしれない。


だけど。


それは貴方次第。


だから。



ふと目を覚ますと真っ青な空が見える。

眠ってたんだ。

まだぼーっとする頭で自分が見た夢を思い出そうとするがはっきりしない。
思い出せないのなら見たくも無い。
気になって仕方ない。
そう思いながらも立ち上がるとふらっと体が傾く。

眠っていた場所は河川敷の坂の途中で転がって行ってしまうと川の中だ。

必死に妙な体勢を取るが重力には逆らえるはずも無く真直ぐに川の中へ落ちてしまった。


少年は学校をサボってここでぼんやりとしていたのだ。
別にいつもさぼっているなんて事はなくたまたまの事だった。
そう、あんな事がなければここで寝るなんて事はなかった。


あれは昨日の夜の事。




静かだった夜が急変したのは丁度日をまたいだ頃の事で
突然の物音のせいで目を覚ました。
そして突然の訪問者のせいで全然眠る事が出来なかった。
今思ってみても夢だったのかもしれないと思うほどの事。

2階にも関わらずそれは勝手に窓から入ってきたそれは
真っ白な服装に紅い目。
小さな女の子…いや妖精?
人にしては随分と小さいし、よくアニメとかで見るような
妖精とそっくりだった。

少年が固まっているとずかずかと入ってきて口を開く。

「貴方、明日死ぬわ。けど安心しなさい。×○◇*△・・・」

いきなりの事にそれ以上の言葉は耳まで届いてはこなかった。
そして気が付いた時にはそれはいなくなっていて
ぼーっとしている自分だけが部屋の中にいた。

「死ぬ・・・」

そんな事ないよな、と続けたかったが声も出ないほどだった。
夢だったに違いないと思ってみても
さっきのあれが妙にリアルでとてもそんなふうには思い切れない。

そして、そのまま眠れずに朝になり学校へ行く途中、
ここで座り込んでいたら眠っていたという事。 



べちゃべちゃになった服を
乾かすにも脱ぐわけにもいかず
しぶしぶそのまま岐路に着く。
幸い家まではそれほど遠くもない距離だったのですぐに着替えをすると
まだ帰ってきていない両親が帰らないうちに
濡れた制服を適当に洗ってすぐに乾かす。



何かいる?そんな予感がしたのは自分の部屋へと戻った時だった。
気配とかそんなじゃなくてただそんな感じがした。
こういう事はよくあって1人で部屋にいると
後ろに何かの気配を感じたりなんてのと同じような感じだったが
明らかに部屋を見渡せるのに
目の前からそれを感じてしまった事に驚いた。

その途端、昨夜の夢を思い出すと震えが止まらない。
何かも分からない恐怖が目の前にいるような気がして
命の危険を感じた少年は部屋にある金属バットを手にすると
近くにある物からそれで思い切り叩き始めた。

「くそー死んでたまるか。出て来い化け物。」 

ブンブンと振り回しながら部屋の中になる物を片っ端から叩き壊してゆくが
そんな物があるわけもなくいるわけもない。
部屋にあるものを全て壊し終える頃にけたたましい音が聞こえてきた。
携帯の着信だった。

少年は出る気もなく、
ただ恐怖を消すためにバットで
何度も何度も叩きつけるが携帯の着信は止まらない。
1分2分・・・何分経っただろう。
いくら叩いてもなり続ける携帯。

「はぁはぁ・・・」

疲れ果てバットを手放すと同時に着信が止まり背後から声が聞こえた。

「どうして出ないのかな?」

ビクッとしたが振り向けない。
部屋の入り口から聞こえた冷たく平坦な声の主は誰。

ドキン・・・ドキン・・・ 

少年の耳に鼓動が激しく鳴り響く。

「せっかく連れてきてあげたのに。」

今度は随分と温かく優しい声に変わった。

スーッと何かが横切ったかと思うと昨日見たあれだ。
何がなんだかさっぱりだった。

怖さは少しだけ薄らいだが、まだ何も理解できていない。

「後、1時間・・・貴方に残っている時間。」

「君はいったい・・・僕は死ぬの?」

冷静・・・いや、どうしても聞きたかった事。
この妖精に聞いて分かるなんて保証も何もないのに。

「そうね・・・まぁ、それで良いわ。
同じ事だし。
兎に角後1時間しかないの。
さっさとやり残した事してきなさい。
貴方のしたかった事。」

「僕のしたかった事・・・。」

「ゆっくり目を閉じて思い出してみて・・・思い出したら急ぐのよ。」

妖精の言うとおりにしてみるとなにやら色々な絵が見えてくる。
それは回想シーンみたいで自分の過去が全て白黒で流れてゆく。

小さな頃、家族でキャンプをしている絵。
運動会で頑張っている自分。
マラソンしている自分。
遊んでいる自分。

と、その中にあるひとつの絵。
それだけ鮮やかに輝いている。
その絵には少年の母親が写っている。

「あっ・・・。」

思い立った少年はすぐに部屋を飛び出し家を出てある場所へと向かう。




そうだった。
行かなくっちゃならないんだ。

もう間に合わないかもしれない。
それでも少年は急いだ。

十字路を2つ行き、その次を右へ、
そしてしばらく坂を登って行くと少年の母親の会社へ着く。

時刻は既に18時過ぎ・・・。
少年は急いで母親の通勤用自転車を探すが既に無い。

少年は更に急いで元来た道を戻る事にした。
そしてスーパーに止めてある母親の自転車を見つけたが鍵がかかっている。

「もう時間が無い・・・」

少年は足で鍵を壊すと急いでその自転車に乗り坂を下り始めた。 




少年にはもう分かっている。
そう思うと涙が止まらない。

ぐんぐんスピードを上げて進む自転車。
少年にはこの自転車が止まることなく花屋の車に衝突する事を知っている。

少年は明日から昨日へ戻ってきていた。
その事をさっき思い出した。

本当は死にたくなんて無い。
だけど・・・
入れ替われるのならそれで良い。
少年の大好きなお母さんだから。

それに身代わりになったなんて思うことも無い。
だから、何にも心配なんてない。


後、数秒・・・


誰かがあの場で亡くならなければならない。
それが運命だから。
その運命は変えられない。

「本当にそれで良いの?」

自転車に乗って猛スピードの状態にもかかわらず再びあの声が聞こえてくる。

「今ならまだあの時に戻すことも可能だよ。まだ高校生なのに。」

これといって何か親に喜ばれることなんてしてこなかった。
むしろ、反抗してばかりで心配ばかりかけてきた。
この先だって別に何も楽しい事なんてない。
何よりお母さんがいないこの世界なんて生きてても仕方ない。

「だから良いんだよ。」 



その直後アキラの乗る自転車は止まっていた花屋の車へと激突してしまった。




貴方の愛しっかり受け取りました。
何もなかった?
いいえ。
貴方のいた意味。
貴方のいた世界。
貴方のいた記憶。
それは今までと何も変わらず進んでゆく。
哀しみもあるかもしれないけれどいつか笑っているあの人の顔が見れるはずだから。

それが私の出来る1つの愛だから。





貴方はそれで幸せですか?
貴方はそれで満足できますか?
貴方はそれでも平気ですか? 



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