双子。
何をするにも一緒でいつも一緒にいた双子。
ずっとずっと続くと思ってた。


それは高校の夏休み前。
二人はバスケ部で丁度夏の大会の時期だった。

双子とは言っても多少実力には差があって弟の方がレギュラーで兄はベンチである。
3年間・・・それは長い時間だった。
その間試合に出られたのは数分。
兄には劣等感すら芽生えていて、
周りの視線や影で何か言われているのだって薄々気が付いている。
何をしても上手く行かない時には弟に八つ当たりなんて事もあった。

どうせ出られないのならさっさと辞めた方が良かったんだ。
これが最後かもしれないっていう試合のさなかにもそんな事を考えていた。

ピー

大きなホイッスルの音にハッと我に返ると弟が倒れている。
相手選手とボールの取り合いの中で床に頭からもろにいったらしい。

一瞬、これで出られる、なんて事を思っていたのかもしれない。
ベンチから立ち上がりかけつけるのが他にいた周りの奴らよりも1歩遅かった。

「すぐに病院へ運んで。」

「はい。」

弟はそぐにタンカに乗せられコートから去っていく。

付いていくべきだ。
いや、それは当たり前。

けど・・・きっとこれが最後の試合。
ずっと出てたあいつはもう良いだろう。
やっと出番なんだ・・・。

しかし、監督が告げたのは別の選手で…。

「おい、早く行ってやれ。
何してるんだ。」

ビクッとした。
その声にだったが、考えている自分にも驚いた。

いつからだ。
バスケしてたの。
なんで始めたんだっけ。

「監督・・・俺を出してくれ・・・。」

「何言ってるんだ?早く病院へ行け・・・本気なのか?」

どんな顔をしていたのかなんて分からない。

怒っていたのか。
笑っていたのか。
泣いていたのか。

いつもなら決まった試合に出る事が多かった兄。
まだ序盤。
緊張は誰よりもしていた。

数分…数秒…。
本当に短かった。
何も出来なくて無我夢中で走っていた。
きっと練習を始めた頃と何も変わらない酷い動きだったはず。
結果大差で負けてしまった。

「後は良いからさっさと行け。
タクシー呼んだから…これで足りるだろ。」

監督は1万円札を渡して他の選手の方へ行った。

俺は…急いでタクシーへ乗り病院へ向かった。



急いだんだ。
それでも…。

そんな事になるなんて思って無かったから。


弟は病院に着く数分前に亡くなっていた。

試合なんて出なければ…。
一緒にあの場から出ていれば…。
何してたんだ…俺。

後悔ばかりが頭の中を巡る。
何週頭をぐるぐるしたってそれは変わらない。

そんなのは嫌だ。

今までずっと一緒になんでもしてきた。
頭も俺より良いしバスケも上手かった。
嫌な所なんてこれっぽちもなかったじゃないか。
むしろ気を使わせてたんだ。
いまさら…。

いくら謝ったって答えてくれない弟を前に泣き崩れた。


スーッと冷たい風が吹くと空気が重たくなった気がした。
その途端に声が聞こえてきた。

「貴方には資格がある。
選びなさい。
彼を救うか自分が生き延びるか。
これは自由。
誰も恨みはしないし憎まれる事もない。」

「誰だ?
何言ってるんだ?」

当然の疑問だと思う。

「貴方たちが天使と呼ぶ者とでも言いましょうか。
貴方には選ぶ資格がある。
身代わりになるかこの時を生きるか。」

何かの勧誘か?
それとも幻覚でも見てるのか。
色々あって頭がぐちゃぐちゃだ。

頭を書きむしり、もう一度声の聞こえる方を見ると
はっきりとその姿が見える。

「1日。
それだけ待つから次来た時に返事をしてもらう。」

はっきりと見えていたそれは薄っすらと消えかける。

「ちょっと待った。
身代わりってあいつと入れ替わって俺が死ぬのか?」

消えかけたままコクリとうなづくとそのまま消えて行った。

1日…。

その1日を何をするわけでもなく
通夜の準備をして忙しそうにしている親や親戚をよそに部屋でボーっとしていた。

「バスケか…。」

ずっと考えてた。
なんでバスケなんて始めたのか。
昔からしてた。
小さな頃。
きっかけは弟だった。

父親がバスケのボールを買ってきただか貰ってきてそれに興味を持った弟がいた。
それからまもなくゴールも家の庭についた。
今思えばものすげー低い場所にあった気がする。

俺はそれほど好きでもなかったけど、
きっと親に弟ばかりちやほやされているのが嫌だったんだ。
だからバスケを弟と同じようにして見てもいたかったんだ。
ただそれだけで始めたんだ。

好きな所なんて何も無い・・・。
無いのか・・・。


いつの間にか眠ってしまっていた。
一睡もしていなかったせいだろうか…。

目を覚ますと目の前にあれがいた。

「起きたみたい。
もう1日経った。
どっちにするのか教えて。」

何も決まっていない。
いや、最初から分かってる。
悩んでなんかいないんだ。
ふりをした方が良いと思ったからそうしたんだ。
結局誰なのかも分からない奴の顔までうかがう。

性格はまるで反対。
本当に双子だったのかも怪しい。
そりゃ顔とかは似てる。
不思議な双子だった。

「答えは・・・」

「本当にそれで良いの?」

さえぎるようにそれは言葉を発した。

「…。」

どうやら喋らなくても分かっているようだった。
だけど、何を言われても変える気はない。

「…もう少し時間をあげる。
部屋にでも戻ってじっくり考えてみなさい…。」

天使とか言ってたけどあれにもノルマでもあるのか…。
月に5人は身代わりにさせるとか…。
他にも天使がいてどれだけ自分が上とか下とか…。
こんな世の中なら消えた方がマシだ…。

ハハハ…声にもならないような笑いをすると
部屋へ戻って一応は考えてみる事にする。

部屋の前で反対側に目をやるともうひとつの部屋。
弟のだ。

当然だが部屋の作りも中にある家具もそっくり。
もう一人の自分がいなくなったような気分だ。

自分の部屋へ入りベッドへそのまま倒れると目をつむってみる。



眠れもしない。
少しの間だったにもかかわらず眠くない。

そばにあった携帯を見ると充電が切れたままだった。

そういえば昨日から切れたままだった。
何か来てるかとコンセントへ繋いでみた。

1通…2通…3通……………。
随分来てる。

ほとんどが弟に関してのメールだった。
どうでも良い…。
ほっといてくれ…。

けど1通だけ違うものがあった。
弟からだ。
珍しい…。
それもそう。
同じ家にいるんだから直接話せば済む事。
わざわざ電話したりメールしたりなんてほとんどなかった。

『兄さん。
面と向かってなんて言えないからメールしとく
今日までバスケ一緒にしてくれてありがとう。
相手は強豪…きっと負ける。
だけど一緒に出来て良かった。
もう1時間後には終わってるんだ。
これが終わったら兄さんはバスケしないんだろうな。
俺はずっと続けるよ。
いつまでだって諦めないんだ。
兄さんは兄さんのしたいようにしなよ。
辞めたって誰もあんな目で見たりしないよ。』




………。

きっと俺が弟であいつが兄貴だったんだな。
そう何度も思った。
そっくりなら間違えても全然不思議はない。

どっちかがいれば良いんだ。
きっと親も親戚も…あいつが生きてればなんて思ってるんだ。

「お前ならどうするんだ…。」

考えても一人じゃ答えが出ない。
どうしようもなくなるといつも2人で考えてた。

プレッシャーかけたのは俺の方か…。
あいつは俺が辞めたいの知ってたんだ。
何もかも知ってて続けた。
結果出さないとって…。
近くにいたくせに俺は何にも知らなかったんだな。

「答えが出たようね。」

「そんなもん最初から決まってんだよ。
さっさとしてくれ。」


その瞬間。
時間が遡って行く。

どうせなら…あの時まで…。
そうしたら…


気が付くと大会の日の朝。
あいまいな記憶の中に何かが引っかかる。

しかし、何も分からずに集合場所…そして試合直前。
メールが来た。

そのメール…なぜだか見なくても弟からだと分かった。
そして、それを見る事もなく…。

「監督。
俺を使ってくれ…弟の変わりに。
どうしても俺が。
こいつ今怪我してるんだ。」

俺は弟の肩をぽんと叩いてそう言った。
弟も監督もおかしな顔をする。
そして監督が弟の顔を見て確認を取る。

「…はい。」

しぶしぶうなづくと変わりに俺が最初出る事になった。
周りの奴らの事なんて気にしない。
弟にどう思われたって関係ない。
これで良いんだ。
これが一番良いんだ。

「兄さんどういう事だよ。」

誰もいなくなってから弟が話しかけてきた。

「最後の試合くらいスタメンで出たいだろ。
どうせすぐ交代さ。」

ぽんぽんと肩を叩くと…。

「すぐ出番だ。
アップしとけよ。
最後くらい何があっても試合は出るんだ。
全部ぶつければきっと勝てるからよ。
頼んだぜ、うちの4番。」

そして、試合が始まった。

『良い?
身代わりにならないといけない。
運命は決まっていて誰かが消える。
それがあの子だった。
それを捻じ曲げる。
ミスなんてしたら結局あの子が亡くなる。
チャンスは一度だけよ。
気を付けて。』

死ぬのに気を付けるとか。
矛盾した言葉だぜ…。

その瞬間はすぐにやってきた。
開始3分。
あの場面だ。
取り合いになった次の瞬間空中で体がぶつかり
バランスを崩しながらもボールを必死に奪う。
が、そのまま頭を強打。

意識が飛んでゆく。



その後の事なんて知らない。
試合にあいつが出たか。
勝ったのか。
負けたのか。
病院へ来たのか。
間に合ったのか。
間に合わなかったのか。
どうでも良い。
あいつは生きてるんだから。


正しい事が常識とは限らない。
間違った事がいけない行為とは限らない。

貴方の本当の気持ちはここにもありますか?



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