2008年9月23日(火)

今日の朝。
部屋の窓を開けると涼しい風が入ってきた。
見えないからか結構この風が気持ち良いって知った。

外の音が私の耳に入ってくる。
車の音。
人の会話。
風の音。
鳥の声。

いつになったら外を自由に歩けるんだろう。



けどそれは案外早く来た。
休みのお母さんが私を外へ連れ出してくれた。

「ゆっくりでいいよ。」

杖を使いながらお母さんの腕につかまりゆっくりと歩く。

ゆっくりと歩く先はスーパー。
買い物。
1人で出来たらお母さんの負担も軽くなるもんなあ…。

知ってるスーパーだからなんとなく分かる。
とは言っても1人で来てたら買い物なんて無理…。

値段も何も見えないし…。

「もし1人で来たら店員さん来てくれるから大丈夫よ。」

お母さんは私の顔を見たのか
言わなくても察してくれて一言言ってくれる。

「そうなんだ。
1人で来れるようになれたらな…。」

「なれる、なれる。
より子なら大丈夫だよ。」

「そうかな…。」

正直不安。
家の中だって無理な感じもあるのに
外なんてまだまだ無理。
交差点も分からないしどこまでが歩道なのかもわからない。
見えてると簡単なものが全然出来ない。


買い物も無事に済むとちょうどお腹が空いてきた。

「お昼食べて行こうか。」

「…うん。」

不安。
それはそう。
家ならこぼしたりしてても別に平気だったけど
お店だとそうもいかない。

入った場所はいつものファミレス。

杖を持った人なんか入ってきたらどう思うんだろう。
前なら私…そういう人見て何思ってたっけ。
何も思ってなかったのかなー。
記憶にもない。

「いらっしゃいませー2名様ですか?」

いつも通りの対応?
そういう人もたまには来るのかな、やっぱり。

注文は見えないからお母さんに任せると―――

「より子、これからどうする?」

「ん?」

これからってどれからだろう。
なんて思いながらの疑問文にしてみた。

「何かやりたい事とかあると良いんだけど
まだ早いのかな。」

やりたい事。
昔から別になんもなかったし難しい問題。
出来る事だって限られちゃったし…。

「うわ〜。」

!?

誰かの声が聞こえた。
それは軽蔑するような声。
嫌な声…。

「マジ止めて欲しいよね。」

!?

また聞こえてきた。
なんだろう…。

「あの子たち…。」

「どうしたの、お母さん?」

「目の見えない子が盲導犬連れて店にいるんだけど
それを気持ち悪そうに見てるのよ。」

目の見えない子?
りゅうた君?
一瞬そんな奇跡的な事まで考えてしまった。

それからもしばらく嫌味のような会話が続くと
私はいてもたってもいられなくなって立ち上がってしまった。

「ちょっと、より子?」

「許せないよ。
もう限界。」

私は声の聞こえる方へと
まるで目が見えているかのような早さで歩くと
その人たちの所で止まった。

高校生くらいな感じの口調。
似たようなもんだ。

「なによ?」

「盲導犬くらいでぐだぐだ言ってるんじゃないよ。」

「はあ?
マジうざいんだけど、あんた。
てか、杖なんか持ってるし、あんたも障害者?
マジできもいんだけどー。」

きもい?
私が?
そんな感情だったっけ…。

「なりたくてなってるわけじゃない。」

「だからー?
きもいからどっかいけよー。」

バチン

なんの音かはすぐに分かった。
手で頬を叩く音。

「あなたたちいい加減にしなさい。
このお店は盲導犬許可のお店だし
障害持ってるからって差別するんじゃありません。」

「ちょ…痛いんだけど。
おばさんなんなのよ。」

大騒ぎになってきてようやく店員が止めに来た。
きっと今回はこれで納まったけど…
あの子らはなんも気にしてもいない。
お母さんはいつから障害者を差別しなくなったんだろう。
私はいつから?

その場は無事に?済んだけど
他の場だったら大変…。
自重しないと…。



今日はなんだか疲れた。
まだまだ歩きなれないから大変。
少しずつ練習しないと…。

私も盲導犬のお世話になるのかな…。


第10日〜あーあやる気出ない〜


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