そっと手を握ると温かい。
ぬいぐるみだけど確かに生きている。
不思議な現象は今までにいくつも見てきた。
今更そんなに驚く事もないけど
自分の常識なんて
とても…とても小さな物なんだなって思う。
最低限は必要な事かもしれないけど
それで自分も他人も縛っちゃいけない。
それと同じで限界だって自分で決めちゃいけない。
限界を作った時点でそれを超えるのは無理。
もっと
もっともっと強くなる。
私はもう1人じゃない。
クーシーはたぶんアルシェリルを追って行った。
街中を探してもいないのはそのせいかもしれない。
とは言ってもアルシェリルのいる場所は分からない。
手がかりがあるとすればボーダー。
あの扉のどれかは繋がっているはず。
あの漆黒の世界。
閃くとすぐに追いかけようとするとナイトメアが止める。
「どうして?」
「危険。」
「それはそうだけど助けないと。」
「クーシーなら大丈夫。
あの人の目。
全然汚れてなかった。」
!?
もしそうだとしても…アルシェリルはいったい何がいたいの。
なぜ人を殺したり天使を殺したりしてるの。
天使って何者…。
探し回ってもこの世界にはいないように感じさせるくらい
街の中は落ち着いている。
夜が嘘のように人々も昼間はあんな事件などないかのように
賑わいを見せている。
ノエルの肩に乗っているひよこのナイトメア。
これで動いていなければ誰が見ても
ただのぬいぐるみにしか見えない。
それにしてもこんなのんびりした街中。
ついつい買い物でもしようかと思ってしまう。
とは言っても行く場所は骨董店。
オルゴール。
いつ見ても良い。
それにしても…
ナイトメアまだ興味を持つとは思っていなかった。
おおはしゃぎでオルゴールを見ている。
「見て見て。
これなんてチョー可愛いよ。」
ひよこのぬいぐるみに入ったナイトメアにとっては
オルゴールも巨大に見えるはずなのに
本当にその良さが分かるんだろうか。
まさか、ベッドと勘違いしてたりして…。
それとも棺!?
なんてね。
「お嬢さん。
随分来るね。」
!?
私の事だろうか。
随分来る?
何度もって事?
「まあ、こういうの好きなんで。」
もしかしてあの鏡買ったから覚えられてる?
なんか良いような悪いような。
「こんな物が手に入ったんだけどどうだい?」
と言って店主が見せてきたのは小さな赤い宝石?
「これは大昔王宮時代に王妃が使っていたと言われる宝石。
ピジョンブラッドで出来た指輪なんだけどね。
何せその王妃が病で亡くなったのは誰もが知っている事。
それがこの指輪の呪いだって言われてて…。」
いや…別に呪われてる物に興味はないし…。
というかそんな物なんで骨董品としてここにあるわけ!?
「わ〜綺麗な指輪。」
ってナイトメア!?
「おや、こちらにいるのはひよこ?」
「ナイトメアでし。」
えっへんとポーズまで決めている…。
なんかひよこに入ってから性格変わったんじゃない。
「よーしじゃあこの指輪はナイトメアちゃんにあげちゃおう。」
ちょ、そんな呪われたのなんて…。
思っているうちにナイトメアはその宝石を受け取っていた。
まあ、そうそう呪いなんてあるわけないし大丈夫かな。
多少の不安もあったけどそのまま店を後に昼食を取りにレストランへ入った。
ぬいぐるみのくせにご飯だけは食べる。
成長して鶏にでもなったらどうするんだろうか。
なんて思うほど食欲がある。
本当性格変わったな…。
「ノエル。
全然食べてないけどお腹空いてないの?」
「ん…少し食べる?」
うんうんってうなづくのと同時に既にその皿に手をかけていた。
がつがつ食べているナイトメアをよそに
ノエルの目は全然別の場所を見ていた。
さっきから1人。
こっちを見ている感じの人がいるのが気になっている。
何気なくしているように見えるがノエルとナイトメアが店に
入ってきた時からずっと緊張しているように見えたし
凄く鋭い目でこっちを見ているのを
ノエルが見逃す事はなかった。
しかも、コーヒーだけ頼んでいるようで
もう何時間もいるのだろうか。
それにしたってノエルとナイトメアがここへ来たのは
偶然だった。
まさか。
この宝石?
まさかね。
確かにひよこが動いているだけでも珍しい上に
大きな宝石まで身に付けていれば誰でも気になるだろう。
「ふ〜食べた。
ノエル何か考え事?」
無邪気で良い…。
きっと不安な事がなくなったのもあって
本来のナイトメアに戻ったんだろう。
最初会った時とは全然顔が違う…。
いや、ひよこって意味じゃなくて…。
そうこうしているうちにその男が動いた。
こっちへ来る!?
と思ったら誰かと待ち合わせていたのか
店に入ってきた女の人と親しい感じで話している。
なんだ…待ち合わせしてただけか。
何にでも警戒しちゃうのも悪い癖かな。
一安心するとお腹が減ってきた。
「あ〜。
私の分…ナイトメア。
全部あげるなんて言ってないのに。」
「え!?
だって美味しいから〜。」
えへへって照れた感じになるナイトメア。
使う場所違うし…。
仕方ないからもう1品頼むとそれをたいらげ店を出る。
この街にいてもアルシェリルは見つからないか。
いったいどうしたら。
やっぱりボーダーからあの世界に行くしかないのかな。
行けたとしても…何もないような世界。
ちゃんとたどり着けるんだろうか。
それにしてもナイトメアはのん気。
心配じゃないみたいに眠っている。
確かにアルシェリルのしている事はよく分からないけど
何か信念はあるはず。
ただ暴れたいだけの奴らとは違う。
なぜ何も語らずに悪役を演じているの…。
貴女は悪い人じゃない…はず。