おはよ〜って挨拶が当たり前のように繰り返される日常に
不自然さを感じながらも無視することなどできずに
そっくりそのまま同じ言葉を繰り返す。
いっそうの事死ぬまでに君に言う挨拶という挨拶を
今まとめて言う事が可能ならどれほど節約した人生を送れるのだろうか。
いつになく後ろ向きな事を考えてしまうのはアイスのせいだろうか?
それともあれかな?
そいつは朝礼の時やってきた。
まだまだ眠気の取れない私が半寝状態でいると
先生の他にもう1人いて自己紹介なんてしてる…
って事は転校生?
「…です。よろしくお願いします。」
そいつは緊張してるのが私にでもわかるくらいカタコトで話している。
名前もよく聞こえなかったけど関わる事もないやって感じで聞き流していると
突然私を呼ぶ声がした。
「雨宮の隣に座ってもらうからよろしく頼むな。」
「はぁ!?」
関わらないからどうでも良いなんて思ったのにいきなりこれだから面倒くさい。
「雨宮って言うんだ…。」
馴れ馴れしいのは苦手なのに勝手に私の視界へ入ってくる
そいつは照れ気味に笑顔なんかしてくるから
こっちまで反応に困るがとりあえず適当に顔を作って応えた。
そこで終わりなら何もあんな事を考える事などなかったと思う。
そうに違いない。
そいつは今さっき会ったばかりの私にいきなり告白してきた。
顔だって悪くはないと思うけど周りにはもっと可愛い子もいる。
皆がいる前でなんて言うのもどうかしてる。
1対1ならそれはそれで困るけど場所くらいは
考えて欲しい…じゃなくて雰囲気くらい…でもなくて
もっとお互い色々知ってから…何言ってるんだろ私は。
いくら初の告白でもあんな何も心の準備も出来てないと困るしかない。
朝礼が終わると足音が近づいてくる。
雫だ。
「なに、なに〜。
ふたりはそういう関係なわけなの?」
ありえない事を分かっていながら言う。
「あのね〜雫。」
ケラケラ笑いながら隣に座って大人しくしている
…誰だっけ?
さっき半端にしか聞いていなかったせいで私はこいつの名前をまだ知らない。
数人がこいつの周りに集まって色々聞き出しているのが聞こえてくる。
どこに住んでたとか趣味とかなぜ天に告白したとか…
私が聞きたいくらい。
少し耳を澄まして聴いてみると名前らしきものが聞こえてきた。
空。
昼休み。
「あ〜私の焼きそばパンが〜。」
「天はいっつもとろいんだよ〜w」
そこには3つもパンを手に入れた雫が笑っている。
カレーパン。
メロンパン。
焼きそばパン。
この学校の名物パンの3つを独り占め。
この元気はどこからやってくるのだろう。
「って、雫はうちから持って来れば良いのに〜コンビニなんだし↓」
「よしよしw
半分ずつ上げるから屋上いこ〜。」
屋上。
遠くまで町が見えて、川が見えて
その向こうには山が見える。
川には橋が架かっていて電車が通っていたりもする。
屋上には数人いるけど結構広いから話し声も
それほど気になりはしない。
「空いてる、空いてる。」
雫が1歩先にベンチを確保するとのんびり歩いている私を
待たずに1つ目のパンの袋を破っている。
「もう〜雫はもうちょっとゆっくり出来ないの〜。」
って最初から焼きそばパン!?
脂っこいのは後でしょ普通…。
急いで全部食べようとしている雫に私は飛びかかって
それを奪おうとする。
「こら〜私の焼きそばパン〜。」
「おいおい、これは私の戦利品だってば〜。」
無心で奪うと私はそれを口に入れた時
ようやく自分を取り戻す。
「ふぁれ?
いふのまに。」
「はあ…あんたって本当、好きなものを前にすると
並みの人間じゃないくらいの力出すよね(汗」
はむはむ…もぐもぐ…。
「それにしてもさ〜びっくりしたね。」
「…ん?」
「ん…じゃないでしょ。
麻馬空(あさま そら)だよ。」
誰…。
「転校生君でしょ。
本当、天はぼーっとしちゃって…。」
心配そうに見られるとどうも反抗できない。
けど、やっと転校生の名前が分かった。
けど、全然聞いた事もない。
もしかしたら昔の知り合いとか思ったりもしたけど
どうしてもその名前には覚えは無かった。
「本当に心当たり無いわけ?」
「ないな〜い。
頭の隅っこにも一切無いよ〜。」
「ん…誰にでも告るような奴には見えなかったけどね〜。」
確かにそうかも。
髪は真っ黒だし長くもないし顔も大人しい感じで
体系も普通よりひ弱そう。
見た感じ一般的に目立たないようなタイプの人。
「それにしても変わった告白だったね〜。
ただいま、ハニー…だってさwww
随分古臭いよね〜。」
「けどけど〜告白じゃないかも?
今考えたらだけど告白なのかな〜?」
「ん〜確かに謎だけど…んじゃ本人に聞いてみようかw」
面白半分で勝手に行動するのが雫の悪いところ。
私の手を取って半ば力ずくその足は教室へ向かう。
朝までのごたごたは嵐のように過ぎ去って
空の周りには誰もいない。
「ほらほら、今がチャンスじゃん?
普通に席に着いて聞くだけじゃん?」
えーー私が聞くの?って顔をしてみるとニヤニヤしてる雫。
また思い立ったら即行動の雫の悪いところが私を突き落とそうとしてる。
「私はどっちでも良いんだし、雫が聞いてきなよ〜。」
本気でいやいや〜をすると雫もそれを分かってか自分で
空の座っている席へと近づいた。
教室の外からその場所まではそんな距離なんてないけど
休み時間なのもあってその話し声は何も聞こえては来ない。
ふたりが話しているうちに何度か空は私の方を見ては
笑みを浮かべていた。
「お待たせ〜。
…!?
ちょっと天?」
「え!?」
「何ぼーっとしてるの(汗」
「ああ…ちょっとふらふらしてたかな。」
「なんだそりゃw
けど、まあ良いや。
それでだけどさー空の奴なんか言いたくないらしいんだよ。
私が天の親友だって言っても信じてるのか分かんないけど
上手く逃げられた感じだよ。
やっぱあんたが直接聞かないと答えてくれないっぽいよ。」
聞くって言っても何を…って感じ。
だいたいこっちはあんな奴どうでも良いのに…。
勝手に周りで話しを進めようとかしないで良いのに。
ちょっとした冗談でしょ…。
下校時間。
部活もしてない私はひとり、下校する。
雫は今日も陸上部…走るのが好きって私のイメージじゃ
何も考えてない人って感じ…ぴったりだw
「雨宮さん。」
下駄箱で靴を履き替えているとすぐ後ろから私を呼ぶ声がした。
忘れる事はない。
あいつの声だ。
「何か用?」
うわ〜普通にしたら良いのに勝手に意識しちゃってるし。
自分でも分かっているのにそんな対応をしてしまうのは
やっぱりあのせい!?
今日は1日もやもやしてるって言うのに…。
「予言する。
雨宮天さん。
君は大変な旅をする。」
「は!?」
何を言ってるんだろう、この人。
しかし、その顔はとても真面目だった。
嘘をつくような感じにも見えない。
「忘れないで。
君は弱くなんかない人なんだ。
他の人のできない事をできるのが君だ。」
何を言っているのか分からない。
きっとストーカーだ。
最近流行の…流行っちゃいかん。
ブルブルと首を振って空の横をすーっと避けるように
歩いていくと空は付いては来なかった。
いったい何だっていうの。
私が何したっていうのよ。
とぼとぼ歩く商店街はいつも賑わっている。
あっちの店もこっちの店も活気があっていつもと変わらない。
八百屋さんも豆腐屋さんも変わりない。
変わっているのは私の心だけ。
全部あいつのせいだ。
アイスのせいなんかじゃないはず。
もやもやは家に帰っても変わらない。
そのまま自分の部屋のベッドに横になると
あいつの言葉が頭をぐるぐる回っている。
「もう何がなんだか分からないよ…。」
第02話〜小人との出会い〜