…コン…コン…
誰かが入ってくる音が地面に響く。
ククルとリアは同時にその音の方を振り返る。
ここら辺ではありえない変わった容姿の人。
女か男かはわからない。
背丈は…
おそらく大人ではないがそれほど低くもない。
一体こんな夜遅くになんでこんなところに来るのだろうか。
神様を信じるような風貌ではない。
腰ほどにまで伸びた長いストレートの黒髪に青い目、
赤黒い服に黒いコート、短い黒いパンツ。
足元には何かいるように見えるが暗すぎて足元までは見えない。
「あの…君は誰?」
私が聞く前にククルが聞いた。
「ノエル」
一瞬間を置いてから高低のないか細い声で答えた。
声からしてきっと女の子。
私と同じくらいのような気がした。
ノエルと答えた子はこっちを見ているが
その視線の先はきっとマリア像。
偶然三人もこんな時間に来るなんて不思議。
これがニア兄さんのいう運命だとしたら…いや、やめておこう。
ノエルは中途半端な場所まで来て二人を警戒しているのか
そこに並んでいる長椅子の1つの端っこに座ると
両手をしっかり組んで何かぼそぼそと呟き始めた。
「ねえ、あの子…」
リアが耳元でこそっと話しながらノエルの方を指差す。
その先には…よく見ると背中に何かいる。
動いているような気がする。
ククルは思わず自分の目を擦ってもう一度確認するがやはり見える。
が、ここからは何がいるのか、あるのかははっきりとは見えない。
「ねえ、そこの二人は知ってる?
この辺りにある噂…10年に1度あるって言うお祭り。」
「10年に一度?お祭り?」
そんなの聞いた事もない。
そう言わんばかりにククルは少しびっくりした声を突然話し始めたノエルに聞き返した。
「そのお祭りはこの世の者とあの世の者が集まってするらしい。
あの世にしっかり送るためのお祭り…橋渡し。」
「ハシワタシ!?」
二人は全く始めて聞いたお祭りだったが
どうしてそんな話をするのだろう。
そんな疑問がリアの頭をよぎった。
「橋渡しって言うのはね…あの世に通ずる唯一の道
その橋までしっかり送り届ける為にあるの。
二度と迷わないように
戻ってこないように。」
それだけ言うとまた黙ってしまった。
しばらくの間三人とも黙ったままの状態が続く。
なぜそんな話をしたのかさっぱり理由がわからなかった。
本当だとしても嘘だとしても言う理由も分からない。
そんな嘘をとっさに浮かぶようなふうには見えない。
リアはククルとも、このノエルともどこか似た雰囲気を感じた。
それにしてもなんか重たい空気。
最初は一人だと思って気楽だったのに
ククルが来てノエル。
何箇所かある教会の、わざわざ廃墟になっている教会。
それもこんな夜に同時に。
さっきの話は本当だろうか?
橋渡し…昔からどこにでも色々な風習とかはある。
うちみたいな運命なんてものに縛られた一家だってそうに違いない。
「リア…ここにいたらやばくない?」
小声でククルが話しかけてきてはっとした。
そう。
確かにそう。
あの話が嘘だとしても何か嫌な予感はする。
けど、なぜかほっとけいない。
ここにいれば何か分かる気がした。
それに逃げるみたいで嫌だった。
せっかく屋敷を出たのに外に出てまで逃げることはない。
「ククルは家に帰りなさい。
私はもう少しここにいる。」
リアには余裕もあった。
例え、何かあってもククルがいなければどうにでも出来る。
そう考えた。
この世には説明の出来ないことが山ほどある。
人間の皮をかぶった獣なんてものは数知れず…。
ノエルがそれだとしても不思議はない。
それならそれでも十分勝算はあった。
ただ、ククルがいた場合は別だった。
例えこの場をしのいでも後々面倒になることは見えていた。
「一人でなんて嫌だよ。
一緒に行こうよ?」
こういう時子供は嫌だ。
すぐに仲間とか友達意識を持つ。
もっとずるくていいんだ。
「わかった。」
とりあえず出てみるのも良い。
そう思った。
どうせいくら言っても一人でなんか出ない。
私も馬鹿ではない。
一緒に出て戻れないくらいの場所まで連れて行ってから戻ってくれば良いだけの話。
ノエルを警戒しつつククルの手をとってスタスタとノエルの横を通り過ぎ、
しまっている扉に手を掛けた時だった。
確かに通り過ぎたはずのノエルが座る長椅子の横にいた。
何かされた?
ククルはまったく気がついていないように私の手を握ったままだ。
いったいどうなっている?
「リアさん。
ひとつ言い忘れ。
おきてを破ったからにはそれなりの覚悟を?」
冷たかった空気がよりいっそう冷たさを増し大気中の水分が凍っていく。
針のように尖った無数の刃が一気に二人目掛けて飛んできた。
リアはとっさにククルを思い切り突き飛ばすと両手を合わせ刀を出すと
すぐに刀をぐるぐると振り回しその無数の針を全て叩き落とした。
「無関係な者まで関わらせる事はないだろ?」
まだ座ったままのノエルはくすっと笑う。
「運命ですわ。
貴女がここに来る事も。
こうなる事も、全て。」
「あの一族はおかしい。
運命だと言うのならなぜ慌てる?
なぜ無駄な事をする?
ノエル、お前は何かしたい事はないのか?
私は楽しんでいる。
邪魔をしないでくれ。
無意味なことはしたくはない。」
すくっと立ち上がったノエルはリアの正面に立った。
ちらっとククルを見ると悲しげな顔をする。
こんな表情が出来るのに冷たい。
そんなわけない。
確信があった。
「私には関係ない。
運命に逆らおうとする貴女が悪い。」
大きく1歩下がりながら再び空気を冷やし
今度はそれを大きな塊としてリアへと向け放ってきた。
直径1mほどにもなった球は一直線にリアへ向かって行くが
リアはよける気配を見せず刀を思いっきり振り下ろすと
勢いよく飛んできた球は粉々に砕かれ辺りに針となって降り注いだ。
その針はリアにもノエルにも牙をむき襲い掛かってきた。
ノエルは体勢が悪くそれら全てをかわすことは出来ずに手傷を負った。
それでもなお、向かってこようとするノエルにリアは刀をしまった。
「何を…?」
「私は無意味なことはしない。
そう言っただろ?」
すでに戦う意味なんてない。
それに気がついていたリア。
戸惑うノエル。
「父上の事だ。
帰れば…。」
運命なんていらない。
きっと…。
第03話〜約束は運命?〜