夜が明けて朝。
朝はいつも大変なリア。
まず寝起きが悪い。
屋敷にいた頃は召使に起こされていたが
その起こされ方も普通ではなかった。
眠っているリアにヘッドフォンを付け大音量で音楽を流す。

普通の人なら0.1秒で起きるほどの音量ではあるが
リアなら10分は起きない。
それくらい寝起きが悪いリア。

それは屋敷を出てもまったく変わらない。
一度目を覚ましてから何度も寝たり起きたり。
それでも窓の外から聞こえてくる人々の足音や声。
あの頃とはぜんぜん違う音たちが耳から入ってくると
何度目かの目覚めでようやくしっかりと目を覚ますと
ぐしゃぐしゃになって爆発している髪を直すために
シャワーを浴びる。

寒い朝に熱いシャワー。
冷たくなっていた体が温まるとそのまま朝食。
まだ少し濡れたままの髪を乾かしながらパンを食べる。
硬いパン。
屋敷にいた頃がどれだけ裕福だったかを思い知るような硬さだ。
ほんの少し前の事でももう過去。
思い出でしかないあの時の暮らしに少しだけ口元が緩んだ。

ありえないほどに嫌だった暮らしを思い出す事になるとは思ってもいなかった。
何ひとつ良い思い出もない。
全てが偽り。
優しさも豊かさも温かさも何もかもが偽り。

パンを食べながら眺める窓の外はとても新しい。
屋敷にいた頃にはなかった光景。
母親に手を引かれどこかへ向かう子供。
親子で楽しそうに話している人たち。
はしゃいでいる子供たち。

あれが普通の暮らし。
私の探しているものはなんなんだ。
あれが運命じゃない生き方?
分からない。

自由。
誰もが欲しいもの。
制限される事なく何でも自分の好きなように行動できる事。

リアにはまだまだそれが何なのか分からなかった。


髪が完全に乾く前に整え終わるとしっかりと乾かし
いつもの服装へと着替え終わると
宿屋の主人に礼を良い外へ出た。

外へ出る瞬間。
これがなんとも言えず心地よかった。

開放。
目に映るものが新鮮で。
鎖がまた少しずつ緩んでいくのが分かった。

町を歩いても誰一人としてリアを見る者はいない。
それも気持ちの良いものだった。
リアにとって外で会う人間は苦手そのものだった。

白い目。
愛想笑い。
お世辞。

陰で言われている事。
呪われた一家だと。

良い思い出なんて何もない。
小さな子供から年寄りまで皆が嫌う一族。
それでもあの土地に居座るしかない運命の魂たち。

諦めている人たちが苦手だった。
何の楽しみもない。
何の未来もない。
朝が来るから起きる。
夜になれば寝る。
そんな生活なんの意味もない。

それでもすれ違う全ての人には笑顔があった。
何もない毎日がなぜそんなに楽しいのか。
何もかも同じ毎日がどうしてたいくつではないのか。
どうしても分からなかった。

それでもその光景にはなぜだか懐かしささえ感じた。


第05話〜探検は楽しい?〜


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