ククルは無事にやっているだろうか。
あの晩気絶したククルをそのままに教会を出たリア。
だがしかし、人がいなくなったり死んだりなんて事があれば
少なくてもその情報は耳に入ってくるはず。
あの後2日間町に留まったが
なんの変わりもない朝があり夜が来る。
明日は町を出る。
その覚悟をした。
ノエルとの再会にもまだ一ヶ月。
ずっとここに留まるのももったいないと言うことで
とりあえず町からすぐのところにあるという泉へ行ってみることにする。
町からすぐ外は草原になっていて自然しか見えない。
本当に田舎だ。
外に出るときはもいつだって誰かに監視されていたような気がした、
あの暮らしとはまるで違う。
なんの気配もなく見える全てが自分だけのものになっている。
そんな気にまでさせるような自由さだった。
草原は次第に森へと変わる。
長い草木におおわれてまるで開拓もされていない場所のように
道らしき道もほとんど見当たらない。
本当にこっちであっているのだろうか。
なんて事を思わせるように森は更に深くなっていく。
それでもあまり深くは考えないでスタスタと先を進む。
それはまるで何度も通った事のある道を歩くようなペース。
一本道であるかのように進む先に何があるのかさえ知らないリア。
森は次第に暗くなる。
夜になるわけではなく
木々が行く手に立ちふさがるように
天まで隠している。
辺りには見た事もない木。
普段見たこともないような化け木。
たまに見たことのあるものがあったかと思うと
その巨大さに驚かされる。
外の世界を知らなかったとは言え
こういうのが当たり前な世界というものに
本当に興味が沸いてきた。
少しの間ぼーっとして立ち止まっていると
どこからか何かの音が聞こえた気がした。
誰かの声にも聞こえたし
風が何かを揺らせた音にも聞こえた。
リアはその場で目を閉じ気を沈め音に集中した。
風の音。
風で木々が揺れる音。
空気の流れる音。
水の流れる音。
水…。
そろそろ泉に近いんだ。
さっきの音の事なんて忘れて再び
行く手を邪魔する草木を刀で除けながら
スタスタと水の音のする方へと向かうと、
まもなく明るい場所へと抜けた。
そこの周りだけ綺麗に整備されたかのように
木々がなくなっていて
太陽の光が泉を照らしている。
そして底まで見えるくらいに透き通った水。
覗き込んでみると吸い込まれそうなくらいの透明度。
その時、大きな風がひとつ吹き込んできて
ふわっと浮いたリアの体は宙を舞い
泉の中央で風が止んだ。
明らかに誰かがいるのは分かったというような
冷静な顔のまま泉へまっさかさま…
と、思ったら泉の上でリアの体が止まっている。
ちらちらと辺りを見回すと1本の木の後ろに隠れる何かを見つけ、
ゆっくりと泉の上から地上へ戻ると
隠れた方へ刀を突きつけ
その何かに向かって話しかける。
「ずっと着けてきてたのか?
いったい何者だ。」
素直に出てくるとは思っていなかったが木の陰から何かが見える。
小さい何か。
勘違いだろうか?
動物か何かなのかもしれない。
その時ちらちらっとリアを見る姿が少し見えた。
とっても小さな体だった。
誰かがいる。
動物じゃない。
人だ。
リアは少しずつその何かに近づく。
逃げるような感じもなく
攻撃してきそうにもない。
怯えてる?
明かりの照らすこの場所だと
かすかなものでも結構見える。
リアは刀をしまった。
「ほら、もう何も持ってないから?」
両手をしっかりと見せるように体の前へ突き出すと
少しぎこちなく笑顔を作ってみせる。
そーっとこちらを見ているようで
次第にその姿が見えてきた。
その体はまるで…。
第06話〜黒猫は喋る?〜