「む〜〜。」
せっかく魔の者を倒したと言うのに
一向にノエルが来る気配はない。
月に1度か2度程度しか来ないと言っていた?
ような気もするが…。
「…。」
何かを悟ったかのような顔をしているじゃこうに
リアは気が付いていたが
いつもならすぐにぺらぺらと話したがるじゃこうが
まったく自分から話してこないことから
何か聞きにくいところがあった。
夜の廃教会。
もうまがまがしい者の気配はないが
誰か来る気配もない。
それにもちろんノエル以外の人にも
それとなく会話をしてみたものの
リアを覚えている人は誰もいなかった。
それはつまり虚世界であると同時に
こっちのリアはここへは来ていない事になる。
それにククルの姿もどこにもなかった。
「よし。」
突然立ち上がると何かを決心したかのように
廃教会から出る。
「どうしたのじゃ?」
「ここにいても仕方ないからもう一度泉へ行く。」
どう考えてもあそこしかこっちへ来た場所はない。
「待て待て。
それは大きな間違いじゃ。」
何を考えているんだ。
そんな感じでじゃこうがリアを引きとめようとする。
「にゃあ?」
リアがとっさに猫の真似をしてきたことに
じゃこうは猫パンチをした。
「まぁまぁ、慌てるな。
真相を話すしかないようじゃが…。」
「真相!?」
「いるはずの者がいない。
それは別世界では当たり前の事じゃが
リアの話からしてそのノエルという者が
あの廃教会へ来ておれば魔の者になる事はないのじゃ。」
リアはハッとした。
ノエルが定期的に廃教会へ来ていれば
魔の者が出現することはないはずだった。
「その事からその者は既に…。」
別の世界の話としてもやるせない。
とは言っても何も言えないのが事実だった。
「ついでに言うとその少年、ククルと言ったな。
あの魔なる者がククルと考えるのが自然かも知れぬ。」
何を信じて良いのか何も分からない。
自分がククルを殺した?
ノエルはもういない?
どうやって来たのかも分からない?
運命を捻じ曲げたせい?
少しだけ後悔しているとじゃこうは更に続けて話す。
「それからこっちへ来た方法じゃが
一度じゃが瞬間的に時空転移されておるな。
おそらくそれの関係と考えるのが妥当。
じゃが、それでわしまでボーダーを越えておるのは
まったく不可解じゃ。」
時空転移…。
つまりはノエルがしたあれ。
廃教会を出ようとした瞬間ノエルの前に
引き戻された、あれだ。
「もし…わざとだとしたら?」
ふと思ったことだった。
ノエルが全てを知っていてこうしたとしたら。
「ふむ…自由に行き来できるような存在だったとしたら
リアをこの世界へ送った理由がわからぬ。
ここの世界であやつはいないのじゃぞ?」
だったら偶然のことだったのかもしれない。
「じゃが衝撃を一番受けたときは
そやつと対峙していた時ではないか?」
そう。
一番衝撃のあったのはあの大玉を破壊した後くらい。
けど、どうだったとしてもノエルに会わない限り
答えは出そうになかった。
「なんとか戻る方法はないの?」
じゃこうはしばらく考えてから口を開いた。
「ないこともないのじゃがわしらの間では禁忌とされておるのじゃ…
が、それしか手はないようじゃな。」
じゃこうは廃教会から出て黙って付いて来い。
そんな顔をしている。
リアもだいたいどこへ行くのかは分かっていた。
泉だ。
あれがそのまま別の世界へ繋がっている扉。
だけどなぜ禁忌なのかが分からない。
便利なものなら使えば良いだけのはずなのに。
そして再びあの泉にやってきた。
「リア、心して飛び込むのじゃ。
どこへ行くか分からんがしっかりあの世界を
イメージさえすればたどり着けるはずじゃ。」
何が禁忌なのか聞く暇もなく飛び込むよう促された。
第10話〜狭間の空間?