ぽたっ
ぽたっ
それはリアも諦め目を閉じた瞬間に起きた。
リアの目の前には大きな背中と黒いコートが見えた。
「ニア…兄さん?」
いや、見た瞬間にそれと分かってはいる。
なぜ私を助けている…。
頭が混乱するも今はそれどころではない。
刺客の放ったそれは確実にニアへと突き刺さっている。
「邪魔だ。
さっさと消えろ。」
そう言うとニアはリアを思い切り窓へと突き飛ばした。
そんな…何を…。
ニアがぶち破って入ってきたおかげで
窓にはほとんどガラスもなく
すんなりリアは窓の外へと飛ばされる。
徐々に見えなくなるニアの姿を掴もうとするかのように
右手の指の先まで精一杯伸ばしたが
その姿は消えてしまった。
「ニア・ノート・ヴァルティス。
貴方は何をしているのか分かって居ないのか?
最後の目撃者であり、逃がした張本人が
また同じ事をしている。
これは由々しき事。
いくらヴァルティスの者とて二度の反逆は許されぬぞ。」
ふっ。
小さなため息にも見えたそれは微かに笑っているようにも見えた。
「アーク・リン・シルバイアよ。
貴様は俺の何を知っているか知らんが
あいつを追わせるわけにはいかない。
最も馬鹿だったヴァルティスの騎士団長として死んでもらう。」
「誰が馬鹿だと、貴様それでもあの一族の人間かーっ。」
ニアとアークがぶつかり合うと
それまでぎりぎりの状態だった部屋の壁が吹き飛び
そのまま外へと戦いの場は移された。
地に降りたリアは二人を追おうとはせずに
反対方向へと走り出した。
微かにもう一つ殺気を感じていたからだった。
それは出来るだけ押し殺そうとしても
溢れてリアの神経にまで伝わるほどの殺気だった。
微かに感じるそれを頼りにリアが向かった先は廃教会だった。
あの二人が気になる。
これだけの騒ぎなら駆けつけていても不思議じゃない…。
それでも宿には来なかった。
と、すれば廃教会。
扉を開け中へ入るとそこには誰もいない。
「そんな…いったいどこへ…。」
「リア…。」
話しかけてきたのはノエルでもじゃこうでもない。
ましてニアでもなく…。
しかしリアにはとても聞き覚えのある声だった。
「ルキ!?」
ルキはリアの昔からの友達だった。
黄土色の…旅人のような服装ではあるが間違いなかった。
身分に格差があるとは言え
二人の中ではそんなもの気にするような事もなかった。
「リア、なんでこんな事を…。」
悲しい目をするルキ。
しかし、リアには掛ける言葉が浮かばない。
「リア。
今からでも遅くないよ。
一緒に帰って謝るんだ。
今ならまだきっと許してくださるに違いない。」
「止まれ、ルキ!!」
1歩近づこうとするルキにリアは言葉で動きを止めさせた。
「何怖い顔してるんだよ、リア…。」
自分では感じていないのか溢れ続ける殺気。
リアは怯えてなどいなかった。
少し前までだったけど一緒に稽古だってしていた。
いつだって自分の方が上で
いつだって勝てていた。
例え、そうなったとしても殺れる自信はあった。
「リア…俺はただ帰ってきて欲しいだけなんだよ。
またいつものように一緒に…。」
「うるさいっ。
私は私の考えでここにいる。
誰かのためとか
何かのためになど生きぬ。」
「分からない…俺にはどっちが正しいのか。
だからこれで答えを出すしか…。」
それまで抑えつけられていた殺気が一気に開放された。
運命…
あのまま居れば戦う事も
どちらかが消える事も
何もなかったかもしれない。
もしかしたら…。
少し嫌な気持ちになった。
刀を交える二人。
いつもならこれが殺し合いじゃなくて稽古だった。
何も違わない。
よく見える動き。
「リア…本当にこれが正しいのか?」
殺気丸出しで何言ってるんだか。
けど、すごくふわふわした殺気。
きっとルキも戸惑ってるんだ。
けど、あの家を出るときに決意した。
私は絶対に自分を捨てない。
誰だろうと…。
リアは覚悟を決めて刀を振り下ろした。
しかし、その瞬間。
ルキの姿が消えた。
正確にはリアの目にはその動きが見えなかった。
次の瞬間、リアの腕から血しぶきが上がる。
「痛っ。」
「リア…痛いだろ…。
だけど俺もずっと痛かったんだ。
リアがいなくなってからずっとだ。
ずっとずっと一緒にいられると思ってたのに…。
なんでなんだーーっ!?」
更に加速したルキはリアへと向かってくる。
一直線に向かってくるルキを避けるのは難なかった。
「ルキ…。」
「驚いているのか?」
確かに驚いた。
こんな事は始めてだった。
「まさか、ルキ…。」
ようやく分かったのか。
そんな顔をするルキ。
普段は手を抜いていたんだ。
こいつ…。
けど、あの動きは尋常じゃない。
なんだったんだ…。
あれはまるで…。
「さあ…もう終幕だよ、リア。」
ルキがもう一度リアへ向かって刀を向けた。
第15話〜1つの答え?〜