やがて近づいてきたそれは前と同じ形をしている。
そして問答無用に突進してくる。

ボーダー内では空気中の水分が無限にあるらしく
ノエルも気合が入っている。
何よりここで食い止めないと…
っていう気持ちが強いんだ。

一撃目はノエルに向かって行った。
冷気を集中していたノエルは
壁を作りその攻撃を打ち消すと
すかさず氷の刃を魔の者へと向け発射するが
まったく効いていないようで平然と二撃目を入れてくる。

しかし、その直前にリアの渾身の一撃が炸裂した。
ありったけの力を込めた一撃。
何も難しい事はせずにただ力一杯に
魔の者を叩いた。

斬れない!?

以前のように意識だけなのかと思ったがそうではないようだ。
実体のある魔の者だ。
刀の先は魔の者の皮膚でしっかりと止まっていて
それ以上でもそれ以下でもない。
まったくの無傷だ。

呆然としているリアに魔の者の右手が直撃すると
リアは数メートル後方へ飛ばされるが
まだ意識はしっかりしていてなんとか体勢を
整えるとノエルをちらっと見てから
再び突進した。

リアが二撃目に向かうと
ノエルは辺りの冷気を集め始める。
そしてリアが二撃目を入れる瞬間
天高く飛び上がり魔の者の注意を引くと
ノエルがすかさず冷気の大玉を魔の者へと放り投げた。

冷気の大玉は魔の者へとぶつかると
大きく弾け飛び粉々になっていく。
ノエルがそれに向かって更に冷気を放つと
魔の者の周りで粉々になっていた冷気の粒たちが
再び集まり始め魔の者を完全に氷の中へと閉じ込めた。

更に空中にいたリアが急降下して魔の者を
氷ごと破壊した。

「やった!?」

粉々に崩れる氷の中に魔の者の姿はない。

「魔の者は倒すと砂のように消えてしまうから
きっと…。」

ノエルは消え去った魔の者へと手を合わせる。

「永い眠りへ…安らかに。」

「ねえねえ…魔の者ってどうして
強さに差があるのかな?」

びっくりしているノエル。
そんなに変な事聞いたのかな…。

「はっきりした事は分からないけど…
多分現世に強い念を持っていると
そのまま強い魔の者になるらしいわ。」

「強い念!?」

「うん。
未練があるとそれだけエネルギーがあるみたい。」

話している途中でも魔の者は待ってくれない。

「また、来た!?」

さっき倒したばかりだと言うのに
再び似た気配の魔の者が近づいてくる。

それから幾度となく同じ方法で魔の者を葬っていくと
時間も分からないボーダーでは疲れが出るのが早い。
精神的にもおかしくなる。

「きりないよ…一旦戻ったほうが良いかも。」

「そうだね…。」

言葉にはしないけどお互い相当疲れてきていた。
いくら坦々とした攻撃の繰り返しでなんとか
なるとしても一瞬も気の抜けない状態が
ずっと続くと耐えられるものでもない。

自分たちのいた扉から戻ろうとすると異変に気が付いた。

「あれ!?」

「どうしたの?」

ノエルが聞くとリアが困った顔をして振り返った。
その状況を見てノエルも言葉を失った。

確かにあった扉が実体として存在していない。
ただの模様。
もしくは映像でしかなくなっているではないか。
二人は焦ってなんとかしようとするが
どうやっても扉が開かない。

「どうしたんだろう…。」

「多分あっちから完全に扉を閉じてるのよ。」

「どうしてそんな事!?
戻れなくなるの分かってるのに…。」

ノエルがうーんって考えていると
リアの思考が悪い方へと向かう。

「じゃこうの仕業!?」

ええ!?
って顔をするノエルはとっさに言う。

「それはないよ。
じゃこうは良い子だよ…。
多分向こうからこっちに来ようとする
何かを塞ぐのに仕方なく閉じたんだよ。」

考えても仕方ないのかもしれない。
じゃこうの仕業でも違っても実世界には今戻れない…。
けど…。

「向こうから閉じれるならどうして最初から
そうしないで私たちをここへ…。」

「それは扉を壊せば最悪進入できるからかな…。」

それ以上話す事も見つけられずに黙ってしまう。
沈黙を打ち破ったのはノエルだった。

「ここいたらまだまだ来そうだから
さっきの安全そうな虚世界へ行かない?」

「…。」

「大丈夫だよ。
町の方へ行かなきゃ自分と会う事もないだろうから。」

有無を問わずにノエルが先に進んでいくのを見て
リアも後に続いていった。


第03話〜野宿〜


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