人!?
いや人じゃない。
獣だ。
見た事もないし聞いた事もない
狼のような形をして普通に歩いている。
「全然聞いた事ないの?」
首をブンブン振り一切無い事を知らせると
ノエルは戦闘体勢に入った。
「ちょ、ちょっと!?
今物音出したら気が付かれちゃうよ!?」
「あれが見たままの相手なら魔の者よりも厄介だよ。
逃げられる保証なんてない。
ましてや迷ってる途中だよ?
はぐれるよりマシだよ。」
痛い。
ぐさっと刺さりながら指示に従う。
「幸い向こうはこっちが気が付いたと
まだ知らないかもしれないから
それを逆に利用するしかないわ。
休憩した振りしてわざと向こうの攻めやすい形を取る。
私が一気に辺りを氷付けにして終わり。」
本当に上手くいくのだろうか。
一応言われた通りに行動する。
狼たちは徐々に迫ってきて二人はあっという間に
取り囲まれた。
ノエルはしっかり溜め込んでいた冷気を
一気に開放すると辺りは一面白銀の世界と化す。
「上手くいった!?」
ぴきっ
「ノエル危ないっ!?」
とっさに刀で割れかけた氷を粉砕し
ノエルの手をしっかりと握り締め走り出す。
「こいつら全然凍って無い。
一匹ずつ倒せるような場所を探そう。」
「…。」
引っ張られながらぼーっとしてしまうノエル。
「どうしたの?」
「な、なんでもないからっ。」
顔が真っ赤になっているのをばれないように
うつむいたまま引っ張られて走る。
が、狼が走り出すと二人の足では
すぐに追いつかれるのが見えていた。
「随分森も深く潜った感じだし
少し暴れても平気かな。」
急にリアが立ち止まるとノエルがリアの背中に体当たり。
「いたっ。
急に止まんないでよ…。」
ノエルが上を見るとリアが凄く真剣な顔をしている。
「…リア?」
「下がってて。
ちょっと本気出すから。」
「えっ!?」
ノエルが下がった事を確認する間もなく
一気に開放するとすさまじい力が現れる。
リアの力では無い。
『今回は仕方ねーな。
まだお前じゃ勝てる相手じゃねーな人狼は。』
リアの意識が次第に薄れていき完全に消えると
リバースと入れ替わった。
その動きは圧倒的すぎる。
一撃で何匹もの人狼が飛び散っていく。
しかし無数にいる人狼はひるむ事なく
リバースへ突進してくる。
それを全てなぎ払うのは難しく数匹が
ノエルへ向かって行ってしまった。
『くそったれがーっ。』
一瞬、刀を高く振り上げ力を込め
ノエルへ向かった人狼へ振り抜くと
青い閃光が地を走り人狼をなぎ払った。
『しかし、きりが無い。
俺の時間もそんなもたねーし。
さてどうするか。』
すっとノエルがリバースの前に立って微笑んだ。
『なんだ!?』
ふわった浮いた感じがして直後には別の場所にいた。
「時空転移か…。」
思わず声に出してしまった。
ちらっとノエルを見ると気が付いていないようだ。
女の体でもリバースになっている時は
しっかりした男の声になってしまうから
リバースは出来るだけしゃべらないようにしていたのだ。
「連続で行くよ。」
1回でも結構な負担なはずなのに
二人も同時に連続で転移。
結果逃げ切ったようだがノエルの体力消耗は半端ない。
そしてリバースの入れ替わっていられる時間も過ぎ
リアへと戻る。
「ノエル、大丈夫!?
無理しなくても平気だったのに。」
「…リア。
またあれと入れ替わったんだね。」
「あ…うん。
だけどあいつ良い奴なんだよ。」
ぱちん
森中に響き渡るほどの音だった。
ノエルがリアの頬を思い切り叩いた音。
「お願いだから心配させないで。
大丈夫なんて言われても余計不安になるから…。」
そっか。
心配してくれてるんだ。
私は何良い気になってたんだ。
「ごめんね、ノエル。」
第04話〜屋敷の前庭1〜