結局あまり理解できないまま屋敷から逃げるように町へ戻ったが
異変はすぐに起きた。

「じゃこうを見た?」

「そう…だと思う。
呼んだんだけど遠くからだったから聞こえなかったのかな…。」

森に全然居ないのになぜ町に…。

「似てる普通の猫だったのかなー。」

「そうかも?」

きっと本人だと思いながらもノエルにまで
負担を掛けまいと同意したふりをする。

ボーダーを超えて簡単に世界を行き来出来ないように
するためにいる黒猫たち。
だけどそれは…普通に考えて泉に入る人間なんかいるのだろうか。
例え知っていたとしても危険を犯してまで行くだろうか。
始めは絶対に行き来するなと言っていたのに
この前は逆に行ってくれ…。
戻ろうとすると扉が閉まっていて…。
虚世界に黒猫はいなかったし
実世界にも黒猫は居なかった。
いったい何をしている…。
誰が…。

「また聞いて無いし…。」

「聞いてる、聞いてるよ。」

怪しいーな。
って顔されたけどほっとこう。
問題は黒猫が消えたことじゃない。
そうだ。
なんで私とノエルをここから遠ざけたのか。
知られたく無い何かがあった?
とにかく早くじゃこうを見つけるしかない。

「ノエル、じゃこうのいたところへ案内して。」

「え!?
別にいいけどもういないと思うよ?」

「良いの、良いの。」

一刻も早くしなければ。
なぜかそう思った。
単なる勘だけど…じゃこうが本当にいたのなら
そこに答えがあるのは確か。

「ここから見たんだけど…。」

と言われて来た場所はじゃこうらしき姿を見た場所から
300メートルも離れている場所だった。

「ノエルって視力良すぎ…。
こんな距離じゃあんな小さいの見えないよ。」

「そう?」

「しかもこの距離で大声出したって聞こえないと思う…。」

ノエルははっとしていた。

とりあえず見たっていう場所で数人に聞いてみたが
たかが黒猫一匹。
それを覚えている人なんていなかった。

これで振り出しか…。

その時一瞬だけ誰かの視線を感じた気がした。
しかし、振り向いたときにはもうそれはなくなっていた。

それから数日の間に何度もその視線を感じたが
振り向くと消えてしまった。


私はノエルとは別行動をしてじゃこうと視線を追った。

廃教会…。
どうしてもここに行きつく。
ククル、ノエルと出会った場所。
虚世界では魔の者が現れた場所。
橋渡しの行われる場所。
ここはなぜ壊されないで残ってるんだ。

その時再びあの視線を感じた。
が、振り向けない。
動けない。

扉の向こうからじっと見られてる。

「…。」

声にもならない。

そんな時間がどれだけ続いただろう。
きっと数秒に過ぎないのだが。

急に体が楽になるとそいつが姿を現した。

「お嬢様、探しましたぞ。」

執事のバルバドスだ。
あれもバルバドスの能力…。

バルバドスが無言で向かってくる。
だが、遅い。
殺気はあるがまったく強さを感じない。

軽く避けるとリアは一撃を与えようとしたが
バルバドスが消えた。

どこだ。
気配がまったくない。
廃教会内全てを見てもどこにもいない。

おかしい。

「…リア。」


第10話〜ボーダーへ〜


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