少ないお金で旅をする。
それは別に苦痛ではなかった。
何かする事。
それがあるだけで何も不自由な事はなかった。
私は少しの間リアと一緒に暮らした後、
家を出て一人旅を始めた。
行った事のない場所がこの世界には沢山ある。
世界を巡っていればきっといつかは…。
「で、付いて着てるわけね…。」
「だって家にいても一人じゃつまんないもん。」
まぁ、私も同じだけど。
始めて知った時は大嫌いだった。
私とはまるで正反対の人生で何も不自由も無く
ぬくぬくと育っていくっていうそれが嫌。
そんなイメージでしかなかったリアは
初めて会った時全然違った。
あんな無邪気で真っ直ぐな人、見た事なんてなかった。
私の運命の中であれだけが救いだったかもしれない。
「ねーノエル、あの谷にあるのって村かな?」
リアが指差す方向には確かにそれらしき集落が見えるけど
あまりにも小さい気がする。
見る限り家が5軒もない。
そんな孤立した人がいるだろうか。
「行ってみようよ。」
リアがノエルの手を引っ張りながら谷を全速力で走り抜けていく。
「ちょ…ひぃぃぃぃ。」
リアはたまにおかしい気がする。
人間なんだろうか。
なんて本気で思う時もあったりなかったり。
あっという間に谷まで降りるとすぐそこに家が見えてくる。
が、人の気配はない。
何年も誰もいないような雰囲気の建物たち。
「廃墟!?」
「そうみたい…。」
だが、辺りを見回していると怪しげなものをみつけた。
「これって…。」
「ぴーちゃんじゃない、それ!?」
リアが私の拾ったぬいぐるみを奪い去って言う。
「ぴーちゃん?」
「知らないの?
最近流行ってるアニメのキャラクターだよ。」
「ぴよぴよ。」
「…。
ひよこの…。」
「うん、可愛いよね。」
可愛いかな…。
あまりこういうのには興味が…。
でも…目が離せない。
「けどなんで喋ってるの、これ。」
「そういうぬいぐるみなんじゃない?」
「ぴよぴよ。」
「…。」
「そいつはぬいぐるみじゃない。
僕の友達…。」
ひょこっと茂みから顔を出しているのは僕と言いながら
どう見ても女の子。
薄緑色のショートヘアに白銀の髪飾り、
白に青のラインの入っている服を着ている。
けど…その全身はどうみても…ミニマム。
人の3分の1ほどしかない。
「あ〜〜〜。」
リアが目をキラキラっせて叫んでいる。
「もしかして新キャラ!?」
「はぁ!?」
私が何ふざけてるのって言おうとする前に
リアは真っ先にその子の側へ行くとつんつんしている。
「ちょっとやめなさいよ。」
「きゃ〜可愛い。」
「僕はおもちゃじゃないやい。」
両手でこのこのこのこの、とリアの胸を叩くと
リアはその子をぎゅ〜っとしている。
「なんとかして〜〜。」
私は冷気を集めてリアの頭の上から落としてやった。
「痛っ。
ノエル何するの〜。」
と、女の子から手を離すとその子は私の後ろに
回ってしがみ付いて目をウルウルさせながら
ノエルを見ている。
きっと嫌なわけじゃないんだ。
いきなりだからどう接して良いのか分からないだけ…。
「リア。」
「…ごめんね。
そんなつもりじゃなかったの…。」
しょんぼりするリアに女の子は近寄っていくと
ヨシヨシと頭を撫でていた。
「きゃ〜〜。」
再びぎゅ〜っとするとまたノエルの後ろに隠れて怯えている。
「リア!?」
「ひぃぃぃ…。」
そんな事を繰り返していると女の子も
慣れたのか諦めたのか何も言わなくなった。
「僕の名前はリム。
こいつはぴーちゃんだよ。」
「ふ〜ん。
なるほどね。」
ここが廃村になってしまったのはある魔の者のせいらしい。
皆それのせいで村を追われ出て行ってしまったらしい。
それにしても…。
「本当にリムは人間!?」
こんな小さいとまだ赤ちゃんとか…
そんなくらいにも見える。
「リムは人だよ。
こいつは違うけどね。」
ぴーちゃんを指して言う。
「きっといろんな人種?がいるんだよ。」
また適当に言うリアに私はため息を付きながらも
考えても分からないことだった。
「それでどうしてリムだけはここに残っているの?」
「リムだけじゃないよ。
ぴーちゃんもいるよ。」
「…。
それ以外にはいないんでしょ?」
「うん。」
「どうしてなの?」
「あの魔の者は僕の友達だったから…
僕までいなくなったらきっと泣いちゃうから。」
魔の者が泣く?
もう人格のないはずの魔の者。
それならせめて…そう思っていたけどそうじゃないの?
その時だった。
それまで気配の無かった茂みの奥から
魔も者の気配が現れた。
私が攻撃態勢に入ろうとした時
リアは既にその魔の者に斬りかかっていた。
あれだけデレデレでリムに夢中だったのに
どうして私よりもずっと早く…。
しかし、リアの攻撃はその魔の者には当たらない。
「げげ…。
こいつめっちゃ硬いよ。」
ノエルが冷気を溜めてそれを放とうとした時…。
「駄目っ。」
ノエルの前にリムが両手を広げて立ちふさがった。
「あれは友達…。」
「そんな…。」
冷気を溜めていたノエルの腕が下がると
ノエルはその魔の者の攻撃を直撃した。
と、思ったらふわふわした何かに全身を覆われている。
それはとても温かくていつでも眠れそうな…。
「あれ…?」
「大丈夫だった?」
どうやらリムの仕業らしい。
魔の者の攻撃を無効化するほどの弾力があるのか
吸収力があるのかわからないけど助かった。
けどどうしたら…。
リムのいる前でこの魔の者を破壊するなんて出来ない。
しかし、リアは力を込めている。
あれをする気だ。
「リア、駄目だよ。
リムが見てる前でそんな事したら…。」
聞こえていないのか
それとも…。
「…。」
リアはその力を込めた一撃を魔の者へと放った。
薄青色の閃光が一直線に魔の者へと向かって行く。
リムもノエルも向かって行くが間に合わない。
その閃光が魔の者を貫いた。
魔の者は砂となって消えてゆく。
「なぜ…。」
リアは表情をまったく変えずに涼しげにしている。
まさか!?
「私は私だよ。
リバースでもない。」
「ひどいよ、リア。」
「…。」
「リム。
悲しいのは今じゃない。
あの子が亡くなった時。
だから今じゃないよ。
私は…大切な人を亡くした。
私のせいで。
だから私の手で供養してあげた。
間違ってないと思う。」
「リア…。」
「…。」
無言でリムはリアの胸でずっと泣き続けた。
第02話〜たこ焼き〜