それからネムの案内で順調に門に向かって歩いている。
その巨大な門は既に見えているがどれほど遠いのか
見当もつかなかった。
「門まではいけると思うけどそこからどうする?」
まだ見てもいないのに言われても
さっぱり思いつかない。
開いていればそのまま通過できるかもしれない。
開いていても通過できないかもしれない。
できないなら…?
さっぱり分からない。
「とりあえず行くしかないよ。
ところでネムはリムを知っているわけではないの?」
「鬼はいっぱいいるから似た種でも
皆知り合いってわけでもない。
家族とか親戚とかにもリムなんていないし…。」
鬼にも家族あるんだ…。
人と何も変わらない…。
私は今何をしたら良いんだろう。
ノエルはここへ来てしまった事の理由を考えていた。
ここへ来たのはなぜだろう。
旅に出る事に決めて…
リアと旅をして…
リムと出会って…
海で…
自分のせい。
それだけがぐるぐる頭の中で回り続けていた。
「やれやれ。
そんな手があったとはな。
手加減して悪かったな。」
さっきの鬼だ。
ネムを私の後ろへ隠すと私は向かって行った。
「ノエル!?」
無茶なのは分かっているけどこうするしかない。
今の私にはこれしか出来ない。
さっきより場所が安定してるせいか球が作りやすい。
「何度しても無駄だ。」
ノエルが精一杯飛ばした球はもろくも
棍棒に破壊された。
「…。」
「どうした?
逃げないのか。」
ノエルが両腕をいっぱいに開き
何かを抱きしめるように閉じると散らばった破片が
一気に鬼に突き刺さった。
「ぐふっ。」
これにはたまらず鬼もダメージを受けた。
「やった!?」
ネムは喜んでいるがノエルの顔に笑顔はまだない。
あの程度じゃ掠り傷にもなっていないと分かるからだった。
そのままノエルは自ら作った球を砕き
自分の周りにそれを散らばせて行く。
「素晴らしい成長だ…人間よ。
だが、火で俺は倒せぬ。」
向かってくる鬼に対してノエルは火で出来た刃を
一斉に投げつける。
「無駄だーっ。」
無残にも叩き落される刃。
次々と撃つがどれもまったく効いていない。
「ちっ…いつまでもちょこちょこ…。」
苛立っている鬼は何かに閃いたかのように突進してくる。
ノエルは難なく回避するが鬼は止まらない。
「しまった!?
ネム!?」
相手はネムだった。
ネムへと突進していく鬼をノエルは追うが
間に合わない。
「あわわ…。」
おどおどするネムに棍棒を振り下ろす鬼。
が、ノエルがすぐ後ろに来たのを待っていたかのように
その棍棒を後ろへと振り下ろした。
「ぐは…。」
小さな声が辺りを静まり返した。
棍棒によって出来た穴がその衝撃を物語っている。
「ノエル!?」
ネムが泣きながらその穴を覗き込むが
暗くて見えない。
「お前も人間の仲間をしたな。」
その棍棒がネムを襲う。
「もろい…。
同じ鬼なのか…。」
「ノ…エル。」
その時、穴の奥底から強い殺気が込み上げてくるのを
鬼は感じた。
「何だ、これは…。
まさか奴がまだ生きているのか。」
穴を見た鬼は驚いていた。
その底に確かに立ち上がっているノエルがいたからだ。
「人間め…。」
その瞬間ノエルは飛びあがり穴から飛び出してきた。
「もう許さない。
鬼にも家族がいたり友達がいたり…
人と何も変わらないと思ったけどお前は違う。」
「…ノエル…。」
「何を言うかと思えばそんな事か。
同じだろうが違おうが関係あるのか?
俺は人間が嫌いなだけだ。
その人間と関わる奴も同じだ。」
誰にでも…。
例え、人でなくとも。
それが鬼でも魔の者でも同じかもしれない。
けど、許せない。
私の勝手かもしれない。
それでも、許さない。
絶対に…。
こいつは私が倒す。
「私はノエル。」
「何だ!?」
「私の名前だ。
鬼、お前のは。」
「名などない。
誰も俺を呼ぶ者などいない。
意味などない。」
「…そうか。
倒す前に名前くらいとは思ったけど仕方ないな。」
血だらけでふらふらなノエルが自信たっぷりに言うのを見て
鬼は高々に笑う。
「そんな体で何が出来る。
次でお前は避ける事もできずに終わる。」
言い終わると鬼が突進してくる。
そして避ける気など無いノエルがにやりと笑うと
一瞬にして鬼を切り刻んだ。
「何だと…。」
一瞬の事に何が起きたのかも分からない鬼は
ぜぇぜぇ言いながら倒れ込む。
「なんだそれは…。」
うずくまりながらノエルを見る鬼の前にある
真っ赤に染まる剣。
「これは血。
私の流した血。
お前のような濁った血でなく
父と母から受け継いだ純粋な血。」
言い終わるとパリンという音と共に
さらさらに砕け散ってしまう血で出来た剣。
「長くは扱えないらしい…。」
「なぜとどめを刺さなかった!?
十分にその時間はあったはずだ。」
「…私にはお前を倒す理由がない。」
「理由だと…。」
「お前が人を嫌うのはなんとなく分かる。
私もそうだった。
人とはどこか違う力を持ち。
影では何を言われてるか分からなかった。
だからと言って私は人が嫌いではない。」
「ふっ…ガキなんぞにそんな説教受けるなんて
思ってもいなかったぜ。」
傷がみるみるうちに回復していく鬼。
「だが、勝ちは俺のもんになりそうだな…。」
振り上げられた棍棒に力は無かった。
「やめだ。
あんな話されちゃその気もなくなる。
さっさと行け。」
棍棒をその場に突き刺すとその場に座りこんでしまった。
「名前は?」
「…バンだ。
もう良いだろう。
さっさと行け。
こんな場面を他の奴らに見られたくねぇんだ。」
なんとなく理解すると私はネムを抱えてその場から立ち去った。
第08話〜門〜