しまった。

そう思った時には既にネムの姿は見当たらなかった。

どうやってここから脱出したら良いのか聞き忘れた。
いくらリアを見つけてもこれじゃ出られない。

さっきと違い草木はなく荒れ果てた土地が広がっていて、
辺りはとても不気味な雰囲気に包まれてきていた。

なんかやばい雰囲気…。
けど、これだけ歩いてきてるのに会ったのはネムだけなんて
いったいどういう事なんだろう。
広さの割りに密度はそうでもないのかも。

鬼に会う確率なんて低い方が良いのは当然。
ノエルは警戒しつつ先を急ぐが
今歩いている場所がどこなのかも
この先に何があるのかも
まったく分からずに歩くしかなかった。

それにしても暑い。
最初倒れていた場所は涼しかったのに
今いる場所はかなり蒸し暑い。
まるで…。

その時、空から何かが急接近してくるのを感じた。
ノエルが空を見上げると大きな物体が降ってきているのが分かる。

あれは何!?

それから数秒後そいつは地上へ降りてきた。

「おやおや。
こんなところから人間の匂いがすると思ったら
また迷子か。」

ニヤニヤしながら話し掛けてくるそいつは
軽く3メートルはある身長に黄色いぼさぼさな髪に
黒い皮膚、暑いからなのか服はパンツしかはいていない。

どう見てもさっき会ったネムとは性格が違いそう…。
それに体格がまるで違う。
鬼って何年生きるんだろうか…。
そもそも寿命なんてあるのか…。

「怖くなって話す事も出来ないのかい?」

まだニヤニヤしている…気持ち悪い。
ああいうタイプは大嫌いだ。

「ま、良いや。
人間がいると臭くて耐えられん。
俺様に出会った事を後悔しな。」

本当に大嫌いだ…。

鬼が拳を振り上げ単純に接近してくると
ノエルはひらりとしれを回避する。

「お!?
なんだお前…。
普通の人間じゃねぇな。」

そういうと鬼はどこから出したのか大きな棍棒で向かってくる。

しかたないな。

ノエルは冷気を集めようとしたが集まらない。

そんな!?

ノエルはぎりぎりのところで鬼の攻撃を避けると
もう一度冷気を溜めようとするが
固まる前に蒸発してしまう。

そうか。
暑すぎるんだ。

「どうした?
反撃してこんのならどんどんいくぞ。」

1回2回ならなんでもないその攻撃も
数を重ねるにつれて徐々にノエルをとらえ始める。

「はぁはぁ…。」

「もう疲れちまったのか。」

鬼の方はまだ汗1つかいていない。
それに対してノエルは汗で体がふらふらになってきていた。
単純に暑いせいだ。
体から水分が徐々に奪われてしまっていたのだ。

今の私には冷気しか集められない…。
この暑さじゃ駄目…。
どうにかしないと…。

そこまでは分かっているが
なかなか今までしていなかった事は出来はしない。
それでも少しずつ希望は出てきていた。

それから何度目かの攻撃の後それはようやく
ノエルの目の前に姿を現した。

小さな赤い塊。

「ほう。
火の玉か何かか。」

それを見た鬼はまったく動じていない。
それでもノエルに出来るのはこれしか無かった。
全力でその小さな火の玉を鬼目掛けて発射した。

しかし、それは鬼の皮膚にぶつかり消滅する。

「わっはっは。
なんだ、それは。
鬼に火が効くわけ無かろう。
灼熱の業火にも耐えられる我らの肉体を
火で焦がそうなど笑いが止まらんわ。」

それでもこの方法でしかここを抜け出す策はないと
判断したノエルはどれだけ鬼が笑おうがお構いなしに
それを打ち続けた。

「無駄だと言うのが分からぬか、愚か者め。」

棍棒をいくらでも繰り出してくる鬼だが
でたらめだったその攻撃も徐々にヒットしはじめる。

「そろそろ限界か?
人間にしてはよくやった。
だが、相手が悪い。
鬼じゃなきゃそこそこ勝てたかもな。」

鬼の渾身の一撃がノエルを襲う。

避けきれない!?

その時、一握りの水がノエルの頭上から降りてきた。

!?

ノエルはそれをすぐに冷気の針にして鬼の目だけを狙った。

「痛っ。
なんだこれはっ。」

思わず棍棒を地面に落とし目を押さえる。
その隙にノエルはその場から離れた。

「はぁはぁ…。」

「大丈夫?」

そこにはネムがいた。

「どうしてここに…。」

「やっぱり心配だったから急いで追ってきたら
案の定…ってそれで見てたら空気中の水分
集められるみたいだったから
試しに汲んでおいた水を投げてみたの。」

なんて賢い子…。

「ありがとう。
もう二度も助けてもらった…。」

「そんなの良いんだよ〜。
人間嫌いじゃないから…。
あの手の鬼はだいたい人間嫌いなんさ…。
昔から現世に行くとあの手の鬼は嫌われてきたから。」

そうか…。
私は見た目だけで判断してた…。
またよくない自分だ…。

「まだ友達は見つかってないみたい。」

少し回りを確認したがいない事を知ると
手伝うと言ってくれた。

「けど平気なの?
鬼が人の手伝いして…
さっきの鬼だって…。」

「そんなのは関係ないよ。
この世じゃ誰が何しても別に怒る奴もいない。
鬼同士で殺し合うのもよくある…。」

そうなのか。
イメージしてたような閻魔様とかはいないってことかな…。

そうだ。

「ネム。
ここから出る方法聞きたかったの。」

「お〜。」

そりゃそうだ。
って感じに手をぽんとするとその方法を話してくれた。

長々と話してくれたが簡単に言うと
門をくぐるだけらしい。
巨大な門。
死者が入ってくる門で普通は一方通行で
死んだ者が向こうからこっちへ来る時にしか
開かないし通れないらしい。

その方法はネムにも分からないらしいけど
とりあえずその門の方へ向かうことにした。
リアの居場所が分からない以上
転々とするよりも門へ向かっている事を
信じるしかなかった。


第07話〜血〜


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