大きく丸く、そして、赤く。

月が満ちてゆく。


「赤い月…。」

ノエルは廃教会の欠けた天井からそれを見ている。
もう来る理由もない廃教会へと来るのは
今まで来ていた習慣もあるけど
それ以上にあるのはここが一番落ち着くからだった。

ここへやってくる大半は死人。
それも死の意味を理解する年齢まで達していない子供たち。
苦しみを和らげてあげようと頑張っていたノエル。
それが全くの逆効果だった。

私がこれから出来る事。
それは1つだけ。
これ以上魔の者を生み出さない事。
それだけ。


きゃー


悲鳴!?

廃教会のすぐ外から女の人の悲鳴が聞こえた。
ノエルは座っていた長椅子からすぐに外へ出ると
母親の前で子供が魔化している途中。

なぜ!?

「悲しんじゃ駄目――」

1歩でも早く近寄ろうとするノエルだったが遅かった。
魔化していく子供は母親すら判断できなく
その母親をも取り込んで魔の者へと変貌を遂げる。

「そんな…なぜこんな事に。」

周りを見ても他には誰もいないし気配もない。
自然に魔化した…なんて事ノエルには信じられなかった。

やっぱり誰かが魔の者を作り出してるんだ。

ノエルは今、目の前で見た現実から目をそむけたくなるのを
限界のところで踏みとどまると決意して魔の者へ攻撃を仕掛ける。
生前の思いが強いほど魔化した時の力が強い魔の者。
母親までも取り込んでしまった魔の者の力は強大。

生半可な気持ちじゃ駄目。
自分を信じるんだ。

しかし、集中できない。
どうしてもあの母親の最後の顔が浮かぶ。
どうしてこんな事に。
どうして息子が。
どうして…。
そう思っていたに違いないと。

亡くなっていた事にすら気が付いていなかったのかもしれない。
だからあんな顔を…。
私の親はどうだった。
…。

とにかくここにいたらまた被害者が出るかもしれない。
街から出ないと。

ノエルは魔の者を誘うように誘導し街から出て行く。
やがて誰もいない郊外までやってくると
再び魔の者と向かい合う。

そうだ。
目の前にいるのは魔の者。
浄化してあげる事が一番良いんだ。
魔の者になったらもうそれしかないんだ。

そう言い聞かせさっきのあの場面を自分の記憶から
消し去ろうとするが目の奥深くに焼き付けられた
あの絵はなかなか消えてくれない。

所詮救うなんて出来ないんだ。
目の前にいる人すら助ける事が出来ないなんて。
今まで何してきたんだ。

迷いがノエルを更に鈍らせる。

今までだっていっぱい倒してきた。
皆、元人間。
分かってた事じゃない。
なんであんな物見ただけで…。

ぎりぎりのところで避けていた攻撃が
次第にノエルを切り裂き始めた。

!?
私が鈍ってきてるの?
それとも…。

しばらく集中して避けていると明らかに動きが良くなってきていた。

もしかしてまだ完全に魔化していない!?

少しだけ何かの希望が見えてきた。
それをして何になるのか分からないけど
ノエルにはそれしかない。

決意したノエルはその魔の者に初めて刃を向けた。

迷いのなくなったノエルの氷の刃が
見事に魔の者に突き刺さり悲鳴をあげる。

その悲鳴にはあの母親らしき人のものもあるが
ノエルがその手を止めることはないく、
むしろその手に力が込められる。

確信があったからだ。

さっきの悲鳴は確かに母親の悲鳴。
まだ間に合うかもしれない。

しかし、ノエルの手が再び止まった。


本当にこれで良いの?
あの母親だけ助かって意味あるの?
この世に残ったって絶望しかないなら
いっそうの事このままの方が良いのかもしれない。
母親が息子を殺したかもしれないんだし…。


ノエルは自分の記憶を取り戻してから迷う事が多かった。
それまでしていた事すら否定され、
何もかも失った。

私は両親なんか嫌い。
この母親だって分からない。
それでも助けたいの…。

ノエルの心の中で熱く鼓動するそれを抑える事はできずに
色んな思いと共に魔の者に直撃すると
魔の者から吸収されたはずの母親がだけが砂にならずに残った。 

「げほっ、げほっ。」

「大丈夫ですか!?」

「ひぃぃ。
化け物、こっちこないで。」

!?
どうして…。

「もう魔の者はいませんから…。」

「あんた何言ってるのさ。
息子を殺した化け物じゃないかい。
私も殺す気かい!?
この人殺し。」

ひ…と…ご…ろ…し。
私が?

「あんたもあの黒い奴の仲間なのかい。」

黒い奴!?
誰!?

その時、晴れているにもかかわらず稲妻が発生し、
その母親に直撃すると跡形もなく消え去ってしまう。

!?
誰かいる。

だが、その気配はすぐに薄れ消えてしまった。

今のはいったい何者…。


第02話〜宿命〜


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