とりあえず起きなくちゃ…。
なんか大変な事になったけど学校行かないと。

あんな事があったからもう目はぱっちり覚めている。
急いで着替えて細い階段を降り狭い廊下を抜け脱衣所へ入る。

天の家はとても古く廊下や階段がとても狭い。
天の部屋だって小物以外はどれも古く
タンスや机は年代物である。
キッチンなんて薄暗く古臭い木製の家具が並んでいるし
脱衣所や洗面所だってそんな感じ。

脱衣所のかごへ着ていた服を放り入れるとそのまま
洗面所で顔を洗い歯磨きをしてぼっさぼさな髪を整えると
キッチンへ入る

テーブルに向かうと皿が2枚上がっていて
1枚にはサンドウィッチが入っていて
レタスやハム、卵なんかが挟まっている。
もう1枚の皿には…レタスやハム…サラダが入っている。

「うっ…。
また出たよ…手抜き料理。」

少し文句を言いながらサラダの方を冷蔵庫から取り出した
洋風ドレッシングをかけて食べるとサンドウィッチを左手に持って
右手にかばんを持って鍵をかけて家を出る。

むしゃむしゃと卵サンドを食べながら早歩きで
神社へと向かう階段を上がっていく。
その階段の段数も半端ではなく300段はあるだろうか。

しかし、天は平気な顔をして卵サンドをもぐもぐしながら
1段飛ばしで上っていくと息1つ切れる事なく上りきる。

日課となっているお参りも多少軽めにしつつ済ませると
来た道とは違うわき道から神社を抜けると一気に坂を下る。

下りきるとイライラした表情の雫が…いない!?
いつもなら遅くなった時、先に来て待っている雫の姿がない。
近くの民家の塀の裏やマンホールの中。
ゴミ箱の中なんかにもいない。
どこを探してもいなそうだ。
一応メールだけ入れておくと再び急いで走り出す。

周りには全然学生がいない。
少しペースを上げて走るとようやく生徒の姿がちらほらと見えてきた。
少し安心して歩き出し携帯に目をやるが返事がまだない。

どうしたんだろう、雫。

そのまま学校へ着いたが雫の姿は教室にもなかった。
隣のあいつの姿もない。
転校してきて2日目で風邪だろうか?

しばらくすると先生が入ってきて朝礼が始まった。
ぐだぐだとよく分からない内容の話が続くと最後にこう言った。

「よし、今日も皆登校してるな。
今日もしっかり頑張れよー諸君。」


今なんて言った?
休みがいないだって!?
雫は?
あいつは?
これも夢…?

私は先生の後を追って廊下へ出る。

「センセー雫は?」

「ん?
雫!?
誰の事だ?」

「…蛍成さんは?」

「蛍成…。
そんな奴はいないぞ?」

そんな馬鹿な!?
私は信じられずに先生の持っているクラス名簿を
奪い取ると雫の名前を上から探していったが
一番下まで行っても雫の名前はなかった。

ついでもあいつの名前も…。

夢だ。
絶対そうだ。
覚める事のない…。

それでも気になって仕方ない私はそのまま階段を上って
屋上へ出る扉の前で雫へ電話を掛けてみたが一向に出る様子がなかった。

なんでなの…。

授業が始まってしまう…急いで教室へ戻り
今度は陸上部の子へメールをしてみるが返事は先生と同じ反応だった。

いても立ってもいられず1時間目が終わると保健室へ行き
仮病を使って早退するとその足で雫の家へと向かった。

雫の家は天の家からすぐのところで神社の裏手にある。
そのはずだった。
確かについ最近遊びに行ったときはそこに
雫の家があったはずなのに
何もないさら地になっているではないか。

もう何がなんだか分からない。
夢なら覚めて…。

学校へ戻る事もできず、そのまま家へも戻らずに
商店街へと向かう。

雫が部活のない時はよく遊んで帰ったカラオケ屋に
ゲーセンやショッピング街。
それに美味しいアイスクリームの売っている店もある。
そこには確かに記憶があった。
絶対1人なんかじゃなかった。

アイス…食べる気にもならない…
なるはずがない…w

買ってしまった。
足が勝手に入り口へ向かい気が付けば
ストロベリーアイスを手に持っていて会計を済ませ
椅子に座ってスプーンでアイスをすくい口へ入れていた。

「やっちまった〜。」

これを言うと餅が食べたくなるのはなぜだろう…。

それは何気なく店の中から外へと目を移した時だった。
見慣れた顔がちらっと見えた気がした天は
アイスを持ったまま急いで店を出た。
昼前だと言うのに結構な人がいる商店街だが見間違えるはずがない。
確かに雫だった。

雫の歩いていった方向へ駆け足で探すが全く見当たらない。
どこかの店へ入ったのだろうか。
ちらちら店の中も見て回るがそれでも見当たらない。

結局、夕暮れが来るまで探したが見つかる事はなかった。
途方にくれながら家の方向へ向き直った時違和感を感じた。

なんだろ…この感覚。

緊迫した空気が天の周りを取り囲んでいく。

誰も感じてない!?
私だけ?

周りを歩いている人や犬猫は何も反応していないが
天は確かに何かいるのを感じていた。

嫌な予感が当たる前にさっさとこの場を離れようとしたが
それを遮るように妙な生物が現れた。

そいつは空から降ってきて私の前にやってきた。

ミニ黒豚のようなそれには羽が生えていて
フォークのような物を持っている。

そしてそれは、何も言わずに天に向かってくる。

嘘!?
豚なのに早い(汗

などと言っている暇すらないくらいに避けるのでも精一杯なのだが
周りの人間には見えていないのか
妙な動きをしている天を見て引いている。

私以外には見えてもいない!?
って事は…こいつもグランフォールから来た敵って事?

天はゆっくり指にはめたあの宝石に触れようとしたが突然走り出す。

ここじゃ駄目…。
今朝来た敵だって窓壊してきたんだから…。

天は軽快に走り出すと神社へ向かう階段を2段飛ばしで駆け上がって行く。
ちらっと後ろを振り向くと豚がいない…。

「あれ!?」

その場に立ち止まって探すと…浮いている。
羽があるかあらって豚が飛んでいるのを見て天は唖然とした。

飛べる豚もいるんだ…。

階段を上りきって境内へ入ると豚もしっかり付いてきている。
ここならと言わんばかりに天は宝石に触れると
力がみなぎってくる。

今朝と同じようにパンチしてみるけど当たらない。

豚なのに速い…。

天がいくらパンチを繰り出しても
一定の距離を保っているミニ黒豚には当たらない。

もっと長い物があれば…。

そんな時変化は起きた。
頭の中で刀をイメージした天の手にはしっかりとそれが握られていた。

え!?

ちょうど向かって来ていたミニ黒豚を
それで叩くとブヒっと言ってか天の空耳か
ミニ黒豚は地面にへばりつくように倒れた。

これ…焼いたら…。

「ちょーーーーっと待った。」

よだれをだらだらしてたのかミニ黒豚がとっさに起き上がって
ぶるぶると震えている。

「俺の名前はロス。
ミクスに飼われてる。」

「飼われてる?」

「そうさ。
妖精は自分であまり行動しない。
こうやって俺たちを使って色々させるのさ…。」

「ん!?
もしかして私って試されたの?」

ロスはそーっと後ずさりしはじめるが
それを天はぐいーっとつかんで離さない。

「やめてくれ〜俺はまだ美味しくない〜。」

じたばたするロスに天は頭をなでなでしてあげた。

「な、何をする!?」

ロスは照れくさそうにしながら後ずさる。

「そんな事されても俺の主人はミクスだけだからな。」

挙動不審極まりない…。

そんなこんなで家に帰ると部屋にはのん気に眠っているミクスがいた。

「こら〜ミクちゃん。」

むくっと起き上がるとゆ〜らゆ〜ら歩いている。

寝ぼけてる…。

「ロスちゃん焼いて食べちゃうぞ〜。」

「え!?」

「食べちゃ駄目〜。
私の豚肉…。」

サーっとロスの顔が青ざめていくのが天にも分かった。

「あれ…おかえり〜。」

1歩引いている2人にハテナマークなミクス。

「見た感じ一応ロスには勝てたの?」

「ん…。」

ロスを見て確認をしようとするとロスが変わりに言う。

「一応あれはできるようになったみたいな…。」

「そっか。
なら良かった〜。」

あれっていうのはあれのことだろうか。

「まあ、徐々に慣れたら良いし。
今日はゆっくり寝て明日行きましょう。」

あれ…何か忘れてる…。

「あああああ。」

「何!?
どうしたの?」

突然奇声を発した天に驚くミクスに飛びつく天。

「雫がいないのよっ。」

「雫?」

「私の親友だったのに学校行っても皆知らないって。
まるでいなかったみたいに…。」

うーんって考えるミクス。

「もしかしたらあちこちで異変が起きてるのかも。
アリスゲート、グランフォール、そしてこの世界。
3つの世界はそれぞれがあって保たれているの。
それが崩れているからここでもその反響が起きているのかもしれない。」

…これで戦わなくちゃいけない理由ができた。
絶対元に戻さなくちゃ。

「それで…明日行くって?」

ミクスはニコッと笑ってこう言った。

「もちろんっ、アリスゲート。」


第05話〜再開〜


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