赤い花が咲いている。
いや…白い花が赤に染まっていく。
その花だけじゃない…周りの花も草も
水も空も空気も…。
ガバッ
「…?」
「起きた?」
そこには安心してため息を付くミクちゃんがいる。
「心配ばっかりさせるんだから、まったく…。」
あれ…どうして心配されてるんだっけ…。
どうしてこんなに胸が苦しいんだっけ…。
確か…。
そうそう。
逃げてる途中で…。
雫に会ったんだ。
だけど雫が攻撃してきて…。
刺されたんだ。
あの雫に。
「大丈夫?
顔色良くなってないけど。」
「う、うん。
ちょっと気分がね。」
それはミクちゃんもだった。
私だけ悲しんでたら駄目…。
それでもすぐに立ち直るなんてできなかった。
それに、どうして生きてるのかって疑問も残ってた。
だけどそれはすぐに解決させた。
ミクちゃんに聞いたら分かるかもしれなかったけど
私の中で答えなんて決まってたんだ。
それは私と同じはず。
だから、私も止まらない。
傷の痛みはない。
よし。
「ちょっと!?」
「行くよ、ミクちゃん。
私はあの馬鹿に答えなくちゃいけない。
たとえ間違えてても…。」
「天…。
ううん、きっと大丈夫。
あの人は優しい…。」
何があったのか分からないけどきっといつもの
雫だったに違いない。
誰にでも好かれる、雫。
私とミクちゃんは空き家から外へ出ると
辺りが静まり返っている事が異変だと気が付いた。
「どうしたんだろう?」
「まさか…。」
その後に入る言葉はお互い分かっていたけど言えない。
この目で確かめるまで。
廃墟となった街はどこを見ても無残としか言いようがない。
見事なまでに建物が跡形もない。
「そうそう。
グランフォールからこっちにってどうやって来てるの?
こっちからあっちに行けば良いんじゃない?
守ってばっかりじゃいつまでも終わらないよ。」
「…焦ってる?
その気持ちは凄く分かる。
けど…そんな危険な事させるわけにはいかない。」
「そんなじゃ全滅しちゃうよ?」
ミクスが観念したかのようにくすっと笑みをこぼした。
「天。
ここにいるのは私だけなの。
他に生物は存在しないわ。
いるのは全て私が作り出したコピーたち。
寂しかったのよ。
誰もいないこんな世界。
昔は大勢の生物がいたらしいのに無意味な進化を繰り返したばかりに
滅んでいってしまった。
なぜ私だけが取り残されたのか分からないけど…。
だけどね?
今は違うの…本当に無くしちゃいけないものはそんな物じゃなかった。
いくら着飾った世界を作っても駄目なんだね。
あの子を見てそう感じたの。」
「それじゃあ…どうするの?」
「グランフォール。
きっとあっちにいるのも私と同じなのよ。
誰もいない世界にただ1つの生命として取り残された…。
だからそれを知った時憎らしく思った。
たぶん…あっちも。」
なんだか難しいけど…結局は寂しいだけなんだ。
可愛そう…。
ますますあっちへ行かないといけない…。
「ミクちゃん、お願い。
あっちへの行き方を教えて。
私、1人で行ってくる。」
「そんな危険な事させられないよ!?」
「雫も取り戻さないと行けないから。」
とびっきりの作り笑顔を見せると何も言えないミクスは
小さなチップを取り出すとそれを空へ向かって放ると
空間が裂け向こう側へとつながる。
「1つで1回だけ行き来できるわ。
お願いだから無理しないで。
危なくなったら戻ってきて…。」
願いを天に託すように1枚のチップを手渡すと
笑顔でその中へと入って行った。
薄暗い空間を泳ぐように通っていくともう一方の世界、
グランフォールへと出た。
こっちも何も変わらない。
未来の世界な感じに見える。
作りも同じだしあの違和感もある。
自然がなくて作られたものばっかりなんだ。
とことこ歩いていると何かが向かってくる。
「やばっ(汗」
何も考えずに堂々と歩いていた天はようやくその事に気が付いた。
入った時から既に見つかっていた天は慌てて身を隠そうとするが
妙なロボットたちがミサイルやレーザーなんかで狙い撃ちしてくる。
こっちと同じなら…。
指に付けた宝石に触れると力が溢れてくる。
今度はしっかりと意思を持っていて
その力も最大限に引き出される。
天は道の上に立つとイメージする。
イメージするものは…ミクスの持っていたスティック。
出現したそれを両手でしっかりと握り締めると
相手に向かって走り出す。
その動きは極めて無駄がなく
スティックから放たれる赤い弾は
敵を1匹残らず退治していく。
「天。」
「雫!?」
敵を一掃した頃ようやく姿を現した雫。
「どうして来たの?」
「帰ろう。
こんな無意味な事したって仕方ないよ。」
雫は首を横に振る。
「天はヤムの事知らないからだよ。
ヤムはずっと1人で生きてきたんだ。
あんな綺麗な世界があるのにここは作られた世界。
なのにアリスゲートの奴はここまで自分の物にしようと…。
そんな事許せるか?」
勘違いしてる…。
「違うよ、雫。
ミクちゃんだってずっと1人だったんだよ。」
「そんな事あるわけないっ。
向こうへ行った時見た。
色んな生き物がいて何も不自由な事ないじゃないか。」
「違うっ。
あれは全部ミクちゃんが作り出したロボット。」
「まさか…。
とにかく…侵略なんて絶対させない。
だから、私が協力してやるんだ。
二度とグランフォールへアリスゲートの奴がこないように。
だから、天もあっちへ帰るんだ。
そして伝えてくれ。
もうかかわるなって。」
天はゆっくりと首を横に振る。
「そうか…残念だよ、天。」
両手に力を込めると綺麗な青い刀が出現して
道をまっすぐに向かってくる。
天もすぐにイメージをして真っ赤に燃える刀を出現させ
ぎりぎりのところで防ぐと一旦後ずさるがもう一度向かってくる。
「こんな方法おかしいよ。」
「…。」
どうしてこんなに肩を持つんだろう。
「天。
私の幸せって何か知ってる?」
「ん?」
お互いに攻撃しつつ防ぎつつ会話が始まった。
「私の幸せは誰も悲しまない世界。
昔、天が泣いてるの見て絶対私の前でなんか泣かせないって思った。
昔っから母親の泣いてる姿見てきたから。
だから、せめて傍にいる人くらいはって
頑張って強くなろうって思ってた。」
「雫…。」
「私ね…父親が嫌い。
お母さん虐めるから。
本当に死んじゃえば良いって何回も願った。
お母さんはお母さんで弱い私に何度も…
謝りながら殴られるの…。
そんな事知らなかったでしょ?」
知るはずない…。
言ってくれなきゃ…。
「そんな時…私の願いを叶えてくれたのがヤム。」
「え?」
「私は願いを叶えてもらった。
だからって事でもないけど
家に居場所のなかった私と同じ境遇のヤムを私は救いたい。
お願いだから邪魔しないで…。
天だけは私の事分かってくれるでしょ?」
再び私は首を横に振った。
「そっか…残念。」
それまでは力を制限していたと言うように
いきなり雫の力が増す。
まずい…元々雫の方が体力もあるし…速い。
天は上手く雫の攻撃を避けながら機を伺った。
が、大きな壁に逃げ道を失うと雫がゆっくりと近づいてくる。
「雫。
雫がどんな家庭に育ってどう私に接してきたのかって事
全然そんな事考えてもいなかった。
けど、私が雫を思う気持ちには何も変わりはないよ?」
「…天。
私には帰られる場所がないんだ。
もうあの世界に未練はないんだ。」
嘘だ…。
「誰にも記憶なかったでしょ?」
確かに…。
じゃああの空って奴…あれがヤム?
じりじりと詰めて来る雫。
そして間合いに入ると同時に全速力で斬りかかって来た瞬間、
チップを目の前に放った。
「何だと!?」
辺りが静まり返った。
雫はアリスゲートへ飛ばされた。
そして二度と戻れなくなった。
「ハニー?」
「!?」
振り向かなくても誰だか分かる。
寂しがり屋のあいつだ。
「雫は…?」
「…。」
「まさかあっちへ…。」
「だったら何か?」
「なんて事を…。」
「あのね…あんたが寂しいのは分かった。
だからって貴方のした事は正しくない。
間違ってる。」
「君もそんな事を言うのか…。」
弱弱しい力で向かってくる空の攻撃を軽く避ける。
「人の形をしているならなんで私たちの世界で生きないの?」
「人は怖い。
騙し、傷つけ…殺し合う…。
悲しいし、痛いし…そんなのは嫌だ。
だから僕はここにいる。
僕を信頼してくれる人だけでこの世界を作るんだ。
冷たいロボットなんかじゃなくて
温かい雫みたいな人間で…。」
「間違ってる。
ミクちゃんの作った世界はちゃんと生きてた。
何もかもがこことは違う。
同じく作った物でもミクちゃんのは
心を込めて作った生物。
貴方の作った物にはそれがない。
心がなくて命令だけを聞くガラクタよ。」
「うるさい。」
再び向かってくるが難なく避ける。
「チップがあるなら貴方もアリスゲートへ行くと良いわ。」
「黙れ!?」
またまた向かってくる空にいい加減カチンと来た。
天は刀をスティックへ変えるとそれで空の頭をボカンと殴った。
少しだけ頭が冷えたのか冷静に話し始める。
「本当はうらやましかった。
僕にできない事をしているって。
だから壊したくなった。」
「違うでしょ。
良いと思うなら一緒に住めば良いんじゃない?」
「それはできない。
ここを捨てるなんて。」
ボカーン
!?
他に誰もいないはずのグランフォールで爆発が起きる。
「何?」
「分からない…
まさかあいつらが勝手に…。
そんな…どうしたら良いんだ。」
「止める方法はないの?」
「そんなのないよ…。」
「下がってて。」
私はイメージした。
とても大きな網。
まさに一網打尽。
向かってくる暴走ロボットを一気にそれで捕らえると
一切身動きができないように閉じ込めてしまった。
しかし、上手くいったのはそこまで。
集まったロボットたちはがちゃがちゃと動こうとしている。
「まずいよ。
あんな密集してたら…。」
ボカーン
今度はさっきよりもよっぽど大きな爆発。
せっかく一網打尽したロボットたちが網を破ろうと
完全に暴走してミサイルやらレーザーを撃ちまくって
ロボット同士で撃ちあいになっている。
「何か方法ないの?
このままじゃ死ぬわよ。」
空がポケットから1つのチップを取り出す。
「今は1つしかない。」
そう言うとそれを天に手渡す。
「…どうするつもり?」
「もう良いんだ。
もう分かったんだ。
こいつらの気持ち…。
悲しんでるんだ。
あの炎はあいつらの涙。
僕はそれを受け止めなくちゃ…。
あっちで雫に会ったら…もう迷うなって言ってくれ。」
どこに力が残っているのか空はロボットたちの方へ歩き始める。
何も言えない。
止める事なんて…。
最終話〜Epilogue〜