今日も新しい悲劇がやってくる。
全ては記憶。
その人形にだけ刻まれてゆく血の記憶。
どこで誰が作ったのか
悲劇の度、持ち主を転々と変えて行った。
「このような物私が喜ぶとでも思ってか。」
その屋敷にいるのはとある国の皇女。
わがまま・・・と言えばそうかもしれない。
しかし、1日の中で自由になれる時間が就寝後のみという現実。
いくら裕福であってもそれがガーネットである意味がない。
名前なんかよりも「皇女」というポジションだけが必要なのだ。
そんな現実に対するささやかな抵抗だ。
「しかし、ガーネット様。
はるばる遠方から来た者たちからの品です。
そのように扱っては・・・。」
「ふん。」
一度もソレを見る事もなくその場から自室へ戻ろうとすると、
急に目の前が真っ白になりその場に倒れてしまった。
「軽い立ちくらみでしょう、なんの心配もいりません・・・が。」
何やら話している声が薄っすらと聞こえる。
また倒れたらしい。
最近よくある。
精神的な物も関係しているのかもしれない。
もう少し寝ていよう・・・。
まだ起きた事に気が付かれていないと思うと再び目を閉じた。
その寝ている傍らにはあの人形が置かれている事など一切気にする事もなく。
その人形に気が付いたのは再び目が覚めた時。
というよりも物音で目が覚めた。
その音。
音と言うより声に近い。
小さすぎて静かなさっきの時間帯しか聞こえないのかもしれない。
そして横を向いた時、それを初めて見て思考が停止しかけた。
明らかにベッドと平行に置かれた人形だったが顔だけ・・・
いや、目線だけがガーネットの方を向いているではないか。
心の中ではドキドキが止まらないが慌てる素振りも見せずに
冷静を装いながらも立ち上がりジーッとそれを凝視する。
「なんだ、人形か・・・。」
それにしても良く出来ている。
大きさが50cmほどでなく1m30cmもあれば人間と見えてもおかしくない。
「しかし見た事もない服装…。」
それもそのはずガーネットのいる国から正反対の位置にある国。
とてもガーネットがいけるような場所ではないのだ。
その人形は赤い刺繍入りの少し黒ずんだ白い着物に
バサバサな黒い髪。
赤い鼻緒の付いた下駄を履いている可愛い女の子。
胴体手足が動く上に瞼や目玉まで動く。
それ故に目玉だけがガーネットの方へ向いていても何もおかしくはないはずだった。
「どちらにしてもこのような気味の悪い物は他の部屋へ置いて頂戴。」
怒った顔を作ってそう言うと困った顔をする大臣。
「そう言われましても・・・。」
何か事情でもあるかのような言い方にも取れる。
なぜこんな遠くの国まであんな人形ごときを・・・。
「言い合う気は無い、これは命令よ。
直ちにその人形をこの部屋・・・いいえ、私の目に届く場所には置かないで頂戴。」
信者は教祖の言う事には逆らえない。
それが間違いや危険だとしても。
ガーネットにはまだ何も理解出来なかった。
外を見るとやけに空が赤く焼けたような色をしていた。
第02話〜始まり〜