「本当でございます。」
いくら聞いても皆そう言う。
本当にあの人形は捨てられたのだろうか。
怪しむ気持ちを抑えきれないガーネットは
弱気なメイドのキャメルを呼び出した。
「なんでございましょう…お嬢様。」
びくびくするキャメル。
なんか悪い事したかしら…なんて思わせているようで
ちょっとだけ悪い気もしたが
ガーネットはそういうキャメルが好きだった。
「別に怒るわけじゃないわ。
もっと楽にして。」
この屋敷の中で一番落ち着ける相手かもしれない。
ガーネットはそう思っていた。
「はあ…。」
きょとんとしているキャメル。
「実はね…。」
人形の事を話すとキャメルは多少怯えていたが
それがまた可愛い。
「だから何気なく聞いてほしいの。
絶対に捨ててないはずだから。」
「それはかまいませんが…
それを見つけてどうなさるのですか?」
「そ、それは見つけてもらった後で考えるわ。」
そこ答えは意外と早くに聞けた。
その日の晩にキャメルはこっそりと私の部屋へ来て
その場所を教えてくれた。
その場所はあの清掃員の部屋。
それを聞いた時何かがつながったのを
ガーネットは感じていた。
すぐに清掃員の部屋の鍵を借りると
その足で清掃員のいた部屋の扉を開けた。
信じられない光景だ。
あれだけ汚れていた部屋が綺麗になっている。
物が何もないわけではない。
そこは誰かが生活しているかのように生活観がある。
がさっ
「誰!?」
返事はない。
が、何かが動いた気配はあった。
耳を澄ませ辺りに集中すると微かな息遣いが聞こえる。
何かいる。
ガーネットはスカートの中へ手を入れると
いつも仕込んでいるナイフを取り出した。
決して相手を傷つける為に仕込んでいる物じゃない。
ただ、自分の身を滅ぼす為だけに…。
貴族以上の女ならそのくらいの覚悟は持たねばならぬ。
何が優雅な暮らしだろうか。
とは言え、人と争うなど口でしかないガーネットが
小さなナイフだけで誰かを制する事など
自分でも無理だとは分かっている。
それでも引くわけにはいかない理由があった。
ちっぽけな理由。
皇族のさが。
何者にも背を向ける事など許されない。
じりじりっとその気配の方へ近寄っていくと
もぞもぞと動き出す。
「はぅ!?」
びくっとしてすり足で下がると扉に背中をぶつけた。
と、同時にそれまでしっかり付いてた灯りが突然消えた。
「いった〜い(涙」
届かない背中に必死で手を伸ばす。
ゆら〜り
ゆら〜り
何かの無数の気配が動いてくる。
背中の痛みなど即座に消え、
真っ暗になった小さな部屋の中に目を凝らす。
すると突然目の前にそいつが姿を現した。
あの時の人形!?
赤い目が暗がりにもよく見える。
「貴女も私を殺すの?」
「!?」
喋った。
この人形はなんだ。
遠方の者から送られてきたこれはなんなのだ…。
「ねえ…私を殺すの?」
いったい私は何を見ている。
これは現実なのか…。
「コロサナイノ?」
今まで可愛らしい声だった人形の声が
急に低く、直接心に響くような声で発してきた。
「殺さないわ。」
すると辺りに充満していた気配が消えて灯りも付いた。
そこにはあの人形が横たわっていた。
恐る恐る近づくが生きている感じはしない。
つんつん
触ってみても一向に動かない。
夢でも見ていたのだろうか。
あれはなんだったのだ。
ふと見た机にはあの日記が不自然にも開かれて置いてある。
近寄ってみるとありえない事が起きている。
確かに最後のページまで見て清掃員のなくなった日の
1日前からなかったはずの日記が昨日の分まで書かれていた。
『まだまだ終わらない。
いつになったら終わってくれるんだ。』
『お願いだから早く終わってくれ。
もううんざりだ。』
いったいどういう事。
誰が続きを…。
それに内容の意味が分からない。
何が終わらないのだろうか。
ガーネットはその不審な日記を持って行こうと
机から持ち上げようとしたが剥がれない。
すんなり諦めると横たわっている人形を持ち上げ
清掃員の部屋を出た。
廊下を歩きながら見る人形は
どこから見ても人形そのものでしかない。
これが動いていたのかと聞かれると
きっとそうは答えられない。
部屋へ戻ると人形を自分のベッドへ置き
人形に話しかけるようにこう言った。
「貴女は私に似ている。
寂しいのね。」
第04話〜雛罌粟〜