平和な日って言うのはあまり続かない。
両親を殺したあの日からの…定めかもしれない。
今もこうして逃げている。
アリスを背負って街の屋根を次々と飛び越えて。
「ノエル…。」
「安心して。
この街なら私の方が誰より知り尽くしてる。
逃げ切れるわ。」
今は良いとしても…しばらくあの家には帰れないかな。
どこにいこう…。
ふとリアを思い浮かべたがそれはいけない。
何より迷惑がかかる。
そう思うとノエルが頼れる相手なんていない。
とりあえず見つかり難そうな廃屋へ入ると
我慢できずに理由を聞く。
「アリス。
どうして家を出たの?」
「そ、それは…。」
「教えて。」
「うん…。
私が本当の子供じゃないから…
あのままいたらきっと殺されちゃう。
そう思ったから出たの。」
!?
「どういう事?」
「あそこの家、子供が出来ないからって
私をどっからか拾ってきて子供として育てたらしいの。」
女の子を!?
ちょっと不思議ね…。
普通跡取りなら男じゃないっけ…。
「とりあえず理由は分かったわ。
だけどアリスはどうしたいの?」
目的なんかない。
そんな顔をしてる。
あの時の私みたいだ。
何か目的があってじゃないと動けない。
リアとは違う…。
「私は…自由になりたい。
怯えながら生きるなんて嫌。
ノエルみたいになりたい。」
!?
意外な言葉が聞こえた。
私みたいになりたい!?
リアも似たような事言ってたっけ…。
「ノエルみたいになれるかしら…。」
私は苦笑いしながら言ってやった。
「私みたいになったら大変だよ。」
「良いの。
ノエルみたいなお姉さんがいたら良かったな。」
「アリス…。」
と、とにかく理由も分かったし
アリスの目的もなんとなく見えてきた感じ。
具体的にどうしたら良いのか分からないけど…。
とりあえずアリスを誰も知らない場所へ行ければ良いけど
そんな場所ここには…。
まして虚世界とか天界とかなんて全然話しにならないし…。
やっぱりこういう問題は解決しないと駄目なのかな。
リアならどうする…。
…直接乗り込んで行って話し合いさせて解決させる…。
そんな事考えそう。
けど、上手く行くかな…そんなの。
問答無用で攻撃されたら?
こっちも戦うの?
それとも逃げるの…。
何か方法はないかな。
とりあえず長い間ここにいるのも危ないし…。
「アリス。
アリスの国ってどっち?」
戸惑いながら指でその方向を指す。
「ありがとう。」
そうだ。
逃げ回っていても駄目。
まずはアリスの国へ向かおう。
どうするかはまだ後で良いんだ。
そうだよね、リア。
アリスの国は意外と近い。
考えてみると遠いわけもない…。
アリスが歩いて森まで来れる程度なんだから。
あっという間に2人はアリスの家が見える街までやってきた。
「案外、こんなところにいるわけないって思って
探してないかもね。」
なんて言いながら歩いていると…。
「あれ、あの子って…。」
「本当に?」
ひそひそと話している声があちこちから聞こえる。
やっぱりこの街は危ない。
出た方が良い。
と、出ようとアリスに話し掛けようとした時だった。
手を握って歩いていた方の腕が何かに引っ張られる。
人ごみの中を歩いていたせいかこんな近くまで報酬目当ての奴が
来ていたなんて気が付かなかったノエルは抵抗せずに
引っ張られるほうへと走っていった。
そのまま路地まで行くと大きな男と小さな男がいた。
つるつるの頭に
黒いタンクトップ。
…大きな方が引っ張っていた方だろう。
頭は悪そうだけど体力では勝ち目はなさそう。
小さい方は何か不気味な雰囲気。
チャイナ服みたいなのを着てる…
男じゃなくて女だろうか?
とりあえず話し合いでは解決出来ないだろうし…。
ノエルはいきなり氷の刃で2人を狙った。
大きな方には直撃したが小さな方は扇子のような物を
使って上手くはじいてしまった。
片方はやった!?
「痛いな、いきなりなんて…。」
「それくらいかわせよ、うすのろ。」
「なんだと!?
俺はお前みたいに速く動けないんでね。」
確かに突き刺さったはずの刃だったがまったくきいていない。
「さてと…2対1で卑怯かもしれないけど
その子を渡してくれれば何もしないよ。」
私は無言でアリスを自分の背後へ隠すと相手も理解したらしく
戦闘体勢にはいる。
「アリス、絶対守るからね。」
アリスを路地の奥の方へ行くように促しノエルも戦闘体勢に入る。
私にだって出来る。
リアみたいに出来ないけど…。
私だって…。
ノエルは巨大な氷の壁を作り出し道を塞いだ。
「ちっ。
戦う気なしかよ。」
壁の向こうで小さな方が怒っているらしい。
今のうちに。
ノエルがアリスの後を追おうとした時、
鏡が割れるような大きな音がした。
振り返ると氷が砕かれている。
大きな男の方の仕業らしい。
というか…大きな方を小さな方が蹴飛ばしたように見える。
大きな方は全身血だらけでもう意識もなさそうだった。
「やってくれたね、お嬢さん。
相棒がこんなになっちゃったじゃないか。」
自分でしたんじゃない…なんてつっこみも
したくなるようなせりふを言われたがノエルは
あの小さい方のした事が気になった。
氷の刃すら聞かなかった大きな男を
簡単に氷の壁へとぶつけた方法。
投げ飛ばしたのか
蹴り飛ばしたのか
それとも別の方法なのか…。
見えなかった分気になる。
「さて、あまり遠くにいかれると他の奴に取られるんで
さっさと終わらせるよ。」
言い終わると同時に小さい方は軽快な動きで
ノエルに向かってきた。
扇子!?
普通の扇子じゃない?
壁に当たる扇子が壁を破壊する。
「それっていったい…。」
「これは特注品でな。
日本刀くらいなら簡単に壊せるぜ。」
そう言って扇子についている刃を見せてくる。
細かくぎざぎざが付いている。
のこぎりのような刃…。
いくら氷で反撃しても簡単に砕かれる。
「さて、そろそろ逃げ場もないぜ。」
絶体絶命。
もう、後ろは壁…。
「覚悟しろっ。」
ノエルも全力で壁を作ったがことごとく砕かれていく。
もう駄目っ。
「これだから女は。」
誰!?
目の前には見覚えのある…。
「あの時の野盗!?」
「邪魔だ、さっさと行け。」
「なぜ助けるの!?」
「勘違いするな。
俺は俺のしたい事をする。
誰も犠牲になんかさせねえ。」
なんだか分からないけど助かった。
ノエルは急いでアリスの行った方向へ向かった。
第04話〜ノエルと一緒ならどこでも平気〜