あれからどれくらい経っただろう。
なんだかアリスが少し大人になった気がする。
こんな生活をしていたらそれも仕方ないのかもしれない。
それに私みたいに強くなりたいからって
あの日から剣術の稽古なんかもしている。
そのうちあのことを知ったら
私に剣を向けるのかもしれないと言うのに
私も少しおかしいのかもしれないけど
実際そうなったら抵抗なんてしないで斬られる気がする。
そう。
私には言い訳なんてまったく出来るわけがないのだから。
「ノエル。
たまには見てるだけじゃなくて稽古しないの?」
アリスには私がボーっとしているようにしか見えないらしい。
まあ、考え事なら夜の方が落ち着く…。
昼間は何もかも忘れられるくらい何かに熱中した方が良いのかもしれない。
「たまにはそうしようかな〜。」
「そうそう。
昼間っからマイナスのオーラでまくりだよ。
体動かして汚い物は外に出そー。」
汚い物って…。
まあ、私自身汚い人間なのは確かか。
「ノエル、早くー。」
久々に相手してくれるって思うとアリスは
少しでも早くノエルを呼ぼうとする。
「はい、はい。」
家の前の庭にある椅子から立ち上がると
ゆっくりとアリスの方へ向かう。
「ノエル手加減しないからねっ。」
にこって笑うとアリスが先手を取る。
のんびりと構えるノエルの手には小さなナイフが1本だけ。
全速力で間を詰めるとアリスは剣を振るう。
難なくノエルがナイフで受け止めると
すぐにナイフでアリスを…。
「はい終了。」
「え〜〜。」
「だってアリスの負け〜。」
「うっ…。」
アリスに剣術は向いてないのかもしれない。
同じくらいの歳の子と比べても1まわりは小さく見える。
可愛いけど…。
それで、あんな物を振り回すのは自殺行為かも。
かと言って私やリアみたいな力があるのかは不明。
持っていたって一生知らないで死んでいく人もいるんだし…。
「そろそろ、洗濯してくるから家の中掃除でもしてて〜。」
「うー。」
まだ唸っているけど無視無視。
洗濯。
この辺りじゃ当たり前のように川まで行く。
井戸は飲み水だしその辺でしたら水が汚れる。
ちょっと不便だけどそんな暮らしも結構良い。
昔は毎日してたんだし。
洗濯する物が詰まっているカゴごと持って家を出るとすぐ裏にある川へと向かう。
ほんの5分も下ると目的の場所。
せっせと洗濯をするノエル。
今日も天気が良い。
あの街にいた頃はいつも曇っていたように
思えてしまうほどここの空は
とても、とても綺麗だ。
空を見ていると久しぶりにあの顔を思い出していた。
廃教会でリアと出会ってからもう結構経つのかな。
色んな事あったけど、
今頃何してるんだろう。
毎日のんびりしていると時間がどれだけ流れているのかも
よく分からなくなる。
幸せってこんな感じなのかな。
!?
見上げていた空に浮かぶ雲が突然暴れだした。
何!?
もちろん揺れたのは大地。
地震!?
今までにそんなに体験した事もない地震。
ノエルはその場にひざまずいてしまい
動くことが出来ない。
早くアリスの所に行かないと…。
必死に歩こうとするが
全く足が言う事を聞かない。
揺れは次第に大きくなる。
まるで近づいてくるかのように。
「何これ!?」
外で稽古をしていたアリスの元にも
同じ現象が起きていた。
地面が大きく揺れ立っているのもやっとだった。
それは次第にアリスの方へと近づいてきて
アリスの前で止まった。
それは巨大な狼。
揺れは巨大な狼の仕業だった。
狼が止まると揺れも止まり
アリスも一息付いたが再び慌てる。
5mはありそうな大きな狼どころか
普通の狼にすら会った事もなかったから
驚かないわけがない。
声も出ずにその姿に圧倒される。
「ぁ…ぁぁ…。」
助けて、と叫ぼうにも声にもならない。
狼はその前足をアリスへと向けられ、
身動きが出来ずにアリスは
そのまま狼に蹴り飛ばされてしまった。
「ぅ…ぁぅ…。」
持っていた剣も折れてしまいなすすべはない。
そして、巨大な狼の足がアリスに向かって来る。
ノエル、助けてっ。
ノエルは間に合わない。
しかし、その時、アリスの力が発動した。
握り締めていた手から熱く燃えたぎる物が現れ
勝手に狼にぶつかって行く。
狼は突然の事に驚くと
すぐに退散してしまった。
「な、何今の…。
私がしたの!?
ノエルの技みたい…。」
「アリス!?
どうしたの、その傷。
地震で怪我した?」
「う…うん。
転んじゃって。」
ノエルはすぐにアリスを家の中へ連れて行くと
消毒すると冷気で冷やす。
「けど…これってかなり変なこけかたしたの?」
「あー…よく覚えてないけど、多分。」
まだまだ嘘が下手なアリスだったけど
ノエルは全然疑わない。
「そっか〜剣も折れちゃってるし…。」
「良いの。
あれはもういらない。
今度からは軽い枝みたいなので良いや。」
「枝?」
「う…うん。
変かな?」
「そんな事はないけど…
じゃあ軽いのにしてみようか。」
相当怪しむのが普通なのに疑わないノエル。
疑う必要なんてない。
そう思ってるからこそ、
アリスの言葉を信じていた。
「ノエル。
ノエルよりいつか強くなってみせるから。」
その言葉に私はドキッとした。
いつか殺される…そう受け取ってしまったから。
第02話〜ちゃんと後で返してね〜