最近アリスが稽古を隠れてするようになった。
森は危ないって言っても言う事を聞かない。
いったいどんな事をしているんだろう。
見に来ないでとは言われたものの
毎日アリスが出掛けると気になって仕方がない。

とは言うものの…毎日の仕事が多くてそうもいかない。
今日も洗濯…。

ちょうど天気も良い午後。
洗濯物を干すには一番良い時間。
早く洗い物をして干さないと…。

「あら、ノエルちゃん。
今日も洗濯かい。」

近くに住んでるおばさんだ。
あまり周りの家とはかかわりたくはない。
時間が経ったとはいえまだまだ心配な事もある。
かかわれば良い事が無くても悪い事が起こる。

「そうそう、この前に狼。
ノエルちゃんの家の近くに来たみたいだけど平気だったみたいだね。」

狼?

「あれ?
あの地震みたいな奴だよ。
表へ出たら巨大な狼がいてまっすぐ
ノエルちゃんの家に向かったと思ったけど。」

そんな事は知らない。
まさか、アリスが?
まさかね…。

私はそう思いながらも洗濯を済ますと
すぐに家へと戻ったがアリスはいない。

また稽古だろうか。

アリスを探しに森へ向かおうとするとアリスが帰ってきた。

「アリス。
どうして言ってくれなかったの?」

「!?」

「狼。」

「それは…。」

「どうやって退治したのかは知らないけど気を付けなさいね。」

それ以上何も聞かない。
言いたくなれば自分から言うだろうし
私にも言えない事くらいある。
あの事だっていつかはばれるのに…。



それからまもなくの事だった。
天界からアンジュが再びノエルの元を訪れた。

「逃げ出した!?」

「ええ。
だからまた貴女を保護しなくてはなりません。
すぐにでも天界へ。」

正直嫌だった。
信じる事も出来ないし、
天使が束になっても勝てなかった相手。
アルシェリルが逃げたのなら真っ先にここへ来てる…。
あの狼?
なら、アリスを狙ったのは納得がいかない…。

「とにかく今すぐには無理。
アリスもいるし…私はもう1人じゃない。」

「だったらなおさら。
貴女といては危険になるのでは?
貴女を隔離する事で他への被害も減ります。」

気に障る事を淡々と言われるとイライラしてくる。
どうもこの人は苦手。

「だったらこうしましょう。
解決するまでその子も保護します。
それで問題はないでしょう?」

少しは話が分かるようになったのか
それとも裏があるのかは知らないけど
私は引き下がらないアンジュと
これ以上話していても押し切られるだけと思い
その条件で天界へと向かう事になった。


「ここが天国か〜。」

「天国ではありません。
天界です。」

わざわざアリスの独り言に答えるアンジュ。
どうでも良いけど2人とも元気…。
これからまた魔の者たちと戦う事になるのに
なぜアンジュは平然としていられるのか…。
人間を守るのが天使?
そうではないの?
魔の者たちは何をしたいのか…。

そう考えながらも前と同じ部屋へと案内される。

「それでは再びあの時までごゆっくり。」

懐かしい部屋。
前はベニちゃんがいつもこの部屋で私といた。

「ベニちゃん…。」

「どうしたの?」


私はアリスに昔の事を話した。


「そんな事があったんだ。
だけどそれはノエルのせいじゃないよ。」

「そうなのかな…。」

ノエルは知ってる。
自分とかかわると皆不幸になる事。

「それよりも、せっかく来たのに外に出れないなんて
なんだかつまんない〜。」

アリスはのん気だ。
自由になってからぴりぴりしてた感じが
どっかへ行ってしまったのかもれ知れない。
それで良いような気もするけど
私といるなら…。


1日過ぎてアリスが暇そうにしている。
何もない部屋。
窓もない。
時計もない。
昼なのか夜なのかすらよく分からない。

何か起きたら出られるのだろうか。
アルシェリルだって次来るなら
もっと何か考えてくるはず。
前と同じような状態なら…。

「ノエル。
遊ぼ〜。」

だら〜んとしたままアリスが床に座っている
私の膝の上に乗っかってくる。

「何かって言っても何もないでしょ〜。」

「うーん…。
何か考えて〜。」

また来た。
自分から言い出しておいて
こっちに振る…。
何もなくても出来る事なんて…。

「じゃあ。」

私は冷気を集めると小さな針にしてアリスへ向けて放つ。

「ちょ、何するの!?」

なんとか避けるとアリスが言う。

「次行くよ。」

ちょうどこの部屋は硬い壁に囲まれている。
これくらい小さな針なら全然傷も付かない。

無数の針をゆっくりと放っていくと
アリスは余裕でそれを回避する。

なんか急に素早くなってる気がする。
やっぱり狼と戦って何かあったんだ。



1時間ほど続けていてもアリスは疲れるどころか
元気になっていた。

「え〜もっといっぱいでも良いのに〜。」

「文句言わないの。
毎日少しずつが一番良いんだから。
そろそろご飯の時間な気がするし…
天使が来た時暴れてたら大変だよ。」

「そっか…。
じゃあまた後でだね。」

本当、この子のスタミナは…。



しかし、ご飯が来ない。

「何かあったのかな。」

「随分時間が経つのに…
前の時もこんな事なかったんだけどな。」

「様子見てきた方が良いかも。」

「そうだね…。
アリスはここにいて。
私が見てくるよ。」

「うん。」

私はアリスを残して部屋を出た。
妙に静かだった。
まるで誰もいないかのように。

いや…皆気配を消している!?
それ以外の気配を追っても誰の気配もない。
アルシェリルが来ているわけではないらしい。
じゃあなんで…。

「ノエルさん?」

アンジュだ。

「どうかしましたか?」

「いえ…ちょっと散歩です。」

気配が無かった。
話しかけられるまで全然気が付かなかったなんて。

「あまり出歩くと万が一の時に困るので
用がない時は出来るだけお部屋の方で…。」

「分かってます。
けど、ずっとあの部屋にいては気分も悪くなりますよ。」

くすっと笑ったアンジュは私の横を通り過ぎていった。

まあ…アンジュがのん気にしてるって事は
まだアルシェリルは来ていないって事。
いつ来るのだろうか。
何より…今更、私を殺してどうなると言うのか。

その時、大きな鳴き声が聞こえた。
それはこの世のものとは思えないほどの声で
体の動きをも奪うほどの嫌な鳴き声だった。

狼!?

ノエルはとっさに浮かんだ。
すぐに部屋へ戻るとアリスの無事を確認する。

「良かった。」

いなかったらどうしよう。
なんて思ってしまった。

「今のって…。」

「アリスは気にしなくて良いの。
天使たちがなんとかするわ。」

正直そうは思えない。
まずどこから来たんだろう。
狼だってそんな巨大な奴を見た事なんてない。
きっとアルシェリルが作り出したんだ。
私も行かないと…。
けど、アリスを1人にするのは絶対に駄目。

それから大きな物音が何度もした。
この音がなくなるまではあいつは生きている。
そして…大きな音がなるたびに誰かが傷つく…。
ここにいるだけなんて…。

「ノエル?
どうしたの、怖い顔…。」

怖い顔にもなる…。
皆私にかかわってこうなっているんだから。
ベニちゃんみたいな犠牲をまた…。

もう我慢できない。

ノエルは立ち上がる。

「ノエル?」

「ごめん、行く。
アリスは絶対にここにいて。」

「うん…。
これ、貸してあげる。」

!?
アリスの手には小さな鏡。

「貸すだけだから…
ちゃんと後で返してね。」

「うん。
行ってきます。」

私は帰ってくると約束してアリスを残して
建物の外へと出た。


そこには狼。
しかし、だいぶ弱っている。
思ったよりも頑張っているらしい。
これなら私が外へ出なくても平気だったかも。

そうしているうちに狼は倒れて動かなくなってしまった。

「ノエルさん!?
あれほど言ったのに。
なぜ貴女は…。」

倒し終えて少し気が抜けているアンジュが話し掛けてきたが
その瞬間、アンジュが血まみれになった。

「アンジュ!?」

既に息がない。
何が起きたの!?

倒れるアンジュを支え、地に下ろすと
辺りを見るがどの天使も警戒しているだけで
その姿をとらえる事は出来ていない。

と、死んだ狼の中から気配を感じた。

まさか…。

「ベニ…。」

その姿は紛れもなくベニシュ。
ベニちゃんだった。


第03話〜私の大切な人〜


戻る