何か変わったかと言えば
変わったような気もするけれど
何も変わっていないと言えば
変わりはないかもしれない。

私もアリスも前の生活へ戻った。
洗濯をして掃除をして稽古をする毎日。
そして夜にはこうして空を見るのが日課。

「流れ星…。」

願いなんてしても叶わない。
そんな事昔から知ってる。

それでも毎日こうして願うのは
希望を捨てきれないからかな。

そんなノエルをよそにアリスは
ノエルにくっついて眠っている。

こうして見ているとあんな力があるなんて
とても見えないのに…。

あの力は私やリアと同じ?
アルシェリルにだって全然劣ってない。
むしろ最初は有利だった。
あれで終わってないとしたら…
次に来た時はアリスはどうしたら良いんだろう。
私があの力を出せればなんて事も無いかもしれないけど
あんな恐ろしい姿はやだな…。
アリスにまで攻撃しちゃったし…。

だけど…未だにどうして魔を作っているのかが分からない。
魔道師と魔と天使。
それに鬼。
人間に死神。
実世界と虚世界。
天界と魔界。
ボーダーと次元の狭間。
どれも無関係のようで関連があるのかな。

アルシェリルがいるとしたら私の左手で開ける次元の狭間?
あの真っ暗な空間はなんだろう。
光の入らない世界…
魔界とも違う。

私はどれとも接点を持ってる。
アルシェリルがしようとした事は何?
魔の者を必要としたわけが分からない。
強い力を手に入れなくても
自分だけでも十分強かったのに…。

天界に恨みでもあったのかな。

天界と言えば…アーリンさんはどっちなの…。
私と同じ死神?
それとも天使?
人間…?

リアは何もしらなそうだし。
アーリンさんに聞いたって答えてくれないだろうし。

はあ…悩み事だらけ…。




朝。

いつもの朝に今日は珍しくアリスが早起き。
どうしたんだろうか。

にこにこして朝ごはんの用意なんてしている。

「べーつーにー。」

聞いてみても答えてはくれない。
怪しいけど言いたくないなら別に聞かない。
きっと楽しい事か嬉しい事でもあったんだろう。

私はいつものように朝食を済ますと洗濯。
アリスは片付け。

このまま何もなくずっと時が過ぎてしまえば
どれだけ幸せだろうか…。

ノエルもアリスもそう願っていた。




ノエルが久々に街へ買い物へ来たのは
それから数日後の事。

色々と必需品を購入した後で
アリスへのお土産を選ぶために入ったのは
古ぼけた大時計の見えた店。
骨董品でも売っているように思わせる雰囲気の店には
思った以上に古そうな物が多く置かれていた。

その中にはさっきの時計の他にも色々な時計があり
マニアならほってはおけない品ばかりだ。

それ以外にも食器や家具など様々な物がどこまでも並んでいる。

しかし、その中でもノエルの目を引き付けたのは
見覚えのある鏡。
昔は金色だったと思われる枠。
てっぺんに天使が2人付いていて微笑んでいる。
が、鏡の一部が割れている。

…これは…。

ノエルはその場に立ち尽くして動けない。

「どうかしたのかね?」

「これって…どこで?」

「その鏡かい…もう随分前の事だけど覚えているよ。
その鏡は昔、廃墟になった村で拾った物さ。
他は売れたんだがそいつは誰も買ってくれなくてね。
割れてるから仕方ないのかもしれないけどさ。
ある人なんて
死人が2人憑り付いている呪われた鏡なんて言うんだよ…
おっと…別に本当にそんな呪いなんてあるわけないけどさ。」

「いくら?」

「え?」

「この鏡はいくらですか?」

「お嬢さん、本気かい?
呪われてる鏡なんて…。」

うんうんってうなずくと店主は言う。

「分かった、只で良いよ。
どうせ拾ったもんだし
置いておいても売れないだろうし。」

「ありがとう。」

礼を言うとアリスへのお土産なんて忘れてそのまま帰宅した。


「えーせっかく言ったのにお土産ないの?
しかも、割れてる鏡…。」

アリスががっかりしているのをよそに
ノエルは鏡を丁寧に何か思いを込めるかのように
布切れで拭いている。

とはいえ、古くなった鏡はそう簡単には綺麗にはならない。

「ふ〜。」

一生懸命に拭いた成果は出ているのか
分からないまま1時間ばかり拭くと
多少は輝きを取り戻したが
割れている部分はどうしょうもない。

「のーえーる。」

アリスがノエルの部屋へやってきた。

「まだ拭いてたの?
どうしてそんなに…。
何か理由でもあるの?」

拭く手を止めるとノエルとアリスに向き合った。

「これ…昔、うちにあった鏡だと思う。」

「え!?
昔ってお父さんお母さんと暮らしてた時の?」

「うん。
昔、あの日…最後に見た黒い影が私なら…
って思ってたら鏡に映ってた私だった。
その鏡がこれに似てる。
割れてたからはっきり見えなかったんだし…
間違えないと思う…。」

もうこれ以上綺麗になんてならないくらいに
布切れで拭き続けたノエルはその鏡を自分の部屋に飾った。


それから何度も同じ夢を見るようになった。
父親と母親を殺す夢。
自分の意思で殺したのか分からない。
アクアもはっきりとは覚えていないらしい。
ただそう思い込んでいるだけかもしれない。

鏡を飾ってから余計に考える時間が増えたせいか
本当にリアルな夢を見る。

時には殺してしまった感触が手に残っていたり
浴びた血しぶきが起きた時にまだ付いているような
錯覚に襲われたりしていた。

「捨てた方が…。」

「それは出来ない。」

絶対駄目って顔をしてアリスを睨む。

「けど…。」

「大丈夫だから。
きっとあの2人だってもう許してくれてるんだから…。」

あの2人。
本当に親じゃないのかな。
お父さんとお母さん…。
良い記憶と悪い記憶…。
まるで別人のように変わったのはどうして…。

私の本当の親はいないの…?
作られた人間なの…?
答えを知りたい…。

けどお母さんから生まれたのは生まれたんだ。
そんなの覚えてるはずもないけど…。
あの頃へ戻れたら…。
そうしたら全て分かるのに。



そんなある日だった。
暑く寝苦しい夜。
再び、同じ夢を見た。


第02話〜ノエルシャドー〜


戻る