また夢だ。
もう散々見たそれはすぐに
夢だと理解出来るようにはなったが
いくらあがいてみても
結末は常に同じで無惨なもの。
最近なんて泣きながら刺し殺していたりした。
夜中に目を覚ました私は
無心でナイフを手に両親の寝室へ向かう。
しっかりと握られたナイフが
月の光に照らされ不気味な光を放っている。
ぎしぎしと歪む床を
すり足でたどり着くとぎいぎい言う戸をゆっくりゆっくりと開いていく。
すやすやと眠っている両親。
まずは父親から一撃で
心臓を突き刺すと
低い声が部屋の中を駆け回る。
その不気味な声に
母親が目を覚ますと
私を見て悲鳴を上げる。
きっと血しぶきを浴びた私が
死に神にでも見えたのだろう。
逃げようとする母親を
寝室から出た廊下で捕まえると
ためらう事なく心臓を一突きにして母親の命も尽きる。
ちょうど後ろにあったあの鏡にはひびが入っていて
その鏡が私を映していた。
呆然と立ち尽くし何かを考えている私。
私は何を考えていたのだろう。
そんな夢を何度も見ていたのにあの日は
あれが夢だったのか現実だったのか
今でも分からない…。
また夢…。
勝手に起き上がりナイフを手にする私。
そして、両親の眠る部屋へとしり足で歩いていく。
両親の寝室へと手を掛けた時、変化が起きた。
「また繰り返すの?」
戸はまだ開いていない。
「誰?」
「私はメル。」
そう言った女の子は私よりも
頭1個分くらいは大きい。
とは言ってもこれは夢だから…当時の私なのか…。
全身を白地にピンクの水玉の入った服装で
頭にはとんがった帽子をかぶっている。
なんにしても自動で動いていた私を止めたのがメル。
「私は――」
「ノエル。」
私が答える前に遮るようにメルは私の名前を言うと
話を続けた。
「過去は変えられない。」
!?
「だけど、それが現実とは限らない。
ノエル、貴女の力を知りたい。
二度と過ちを犯さないで。
この戸を開けてはいけない。
ちゃんと現実を見て。」
現実?
これは夢…私が殺したっていう夢。
それが嘘の記憶なの?
ほんのわずかな時間考えていただけだったが
そこにはメルの姿がない。
現実だったのだろうか…それとも。
今まで出てこなかったものが夢で出る。
そんな事あるの?
だいたい今日は夢なのに自分の意思で動ける…。
このまま自分の部屋へ戻れば何か変わるんだろうか。
そう思って引き返そうとしたノエルに見えない壁が
その行く手を遮った。
確かに見えるあっち側になぜか進めない。
それはまさしく見えない壁。
いくら行こうとしても自分の部屋のある方向へは
進めなかった。
それでも部屋へ入らなければ良いんだと開き直って
家の外へと向かおうとしたが外へと通じる戸が開かない。
いくら押しても引いても全く動かないそれは
実際に戸が存在しているのかさえ怪しく思えた。
結局行ける場所が寝室しかない。
自分の意思で動くことが出来るんだから
ここの戸を開けても…。
ノエルは開けようとしたがメルの言葉を思い出してとどまった。
この戸を開けてはいけない。
どうしたら良いんだろう。
手にはナイフ…。
何気なくナイフを床に落とすと何かが動き出す気配がした。
それは私のいた部屋の方からこっちへ近寄ってきている。
ドクン
ドクン
近寄ってくる何者かに心臓も緊張している。
そして見えてきたそれにノエルは驚いた。
真っ黒な影。
それもノエルの影。
私は自分の影を見てみた。
しかし、そこに影はない。
あれは私の影!?
「そう。
あれは貴女の影。
アルシェリルの意思を持つ影。」
!?
アルシェリルの意思で両親を殺したって言う事なの!?
ノエルは落としていたナイフを拾うと
ノエルシャドーに切りかかったが
当たるどころかすり抜けてしまった。
影だから当然と言えば当然…。
けどこのままじゃ…。
影は私なんかいるのかも分かっていないようで
そのまままっすぐに両親の寝室へと向かう。
なんとかしなくちゃ…。
しかし触れられないならどうしようもない。
慌てているノエルをよそに
ノエルシャドーは戸に手をかけた。
その時だった。
ノエルは小さな体で無理やり冷気を集め
ありったけの量を戸へとぶつけた。
すると戸は固まり
ノエルシャドーは戸を開けられない。
やった!?
戸が開かない事で異変に気が付いたのか
こちらをにらむかのようにノエルシャドーが
ノエルの方を向く
ノエルを確認したのかノエルの方へと歩き出す。
第03話〜なんか嫌な感じする〜