朝はいつものように軽快にやってくる。
たまには寝坊するのも良い。

ベッドの中で寝起きの余韻に浸っていると
ドタバタと部屋の前まで慌てるようにアリスがやってくると
そのままドアを開けてきた。

「あいつが…あいつが来た。」

あいつ!?
あいつって誰…。

そう思いながらもそいつの気配を感じ取ると
それが誰だかすぐに分かった。
禍々しい気配は忘れるはずも無い。

けど…なぜ隠さない。
しかも入り口からご丁寧に?

ノエルはベッドから起き上がると同時にそいつは姿を現した。

アルシェリル。
魔を作り出す元凶。
天界を混沌へと落としいれ…私を作り出した者。

「お元気そうで何より。」

「そちらこそ…。」

殺す気ならわざわざこんな登場の仕方はない。
アリスを人質にだって出来たわけだし…。
なら何をしに?

「魔を作り出す理由。
そろそろ思い出してくれませんかね。」

!?
理由…人を滅ぼす為…違う?

「魔…それを最初に言ったのは人間。
確かにあの見た目では仕方ないのかもしれませんね。
しかし、私がアレを作り出した理由は他にあります。
彼らは望んでああなっている。」

「まさか!?」

「いいえ、私はただその手助けをしていただけ。
けど、それももう終わってしまった。
死神化してしまったあの状態からの攻撃を防ぐのに
力をほとんど使ってしまってその手助けすら出来ずに
滅んでいく者が多くいる。
こんな偏狭の地に来てその事にも気が付いていないとか…。」

!?
ちょっと待って。
色々言ってたけど何?
また何か起きてるわけ!?

「祈りが届かずして滅んでしまった者たちは死にきれずに怨念となる。
それが今、この世に潜んでいる。」

潜むってどういう事…。
暴れてるわけじゃないの?

「怨念は人の形をしている。」

!?

「そして普通に日々の生活をしているのも存在する。
そのまま生活している分には構わない。
けど、あいつらには人の形を保つ事が難しい。
それを維持する為には人の皮が必要。
今、まさに起こっているのはそれ。
次々と一般人が消えている。
または皮を剥ぎ取られた死体が毎晩のように…。」

寝起きにするような会話じゃない。
とは言ってられないけど。
というかアリス…今更遅いか。
最初から聞いてたし。

「で、どうして私に?
力が戻ったら自分でなんとかする事で解決できるのでは?
それに私がそれをすぐに信じると?」

私が疑問に思った事を少し言うとアルシェリルがすぐに答えてきた。

「信じるかどうかは問題ではない。
聞いたからには必ず動くはず。」

…上手い言い方。
確かに嘘だろとしても
利用されるんだろうとしても
きっとその場所へ行ってしまう。
どうすれば良い…。

「なら…なぜ最初から事実を広めなかったの?」

魔化した人はその意思で人を殺していた。
そうだとしたらなぜ…。
私だって両親を憎んでいた記憶もある。
殺したいって思う事自体は不思議な感情なんかじゃない。
そうのはず。

「それは貴女も同じだったでしょう?
リアと会うまでに貴女は誰かと共存する事など考えもしなかった。
違う?」

…確かにそう。
私は1人で全てを背負って生きて行けば人の為になる。
そう思って生きてきた。
リアと出会って私は変わった。
自分の為に生きても良いんだと…。
だったら今更、人がまいた種なんて…。

「私から作り出されたのだから…それは当然。
私の意思がそのまま入っている。
私の最高傑作だよ。」

相変わらず深々と被っているフード。
その表情を伺う事は叶わない。
それどころか未だにしっかりと顔を見た気がしない。

とにかく…人と死者の区別を付ける方法でも聞かないと
何もできるわけもない。

「それで、見分ける方法は?
あるんでしょうね。」

「ない。」

「え!?」

「何1つない。
しいて言えば人の皮を剥いでいたら怪しい。
被っていたら死者。
それ以外に見分ける方法を私は見つけられていない。
簡単に出来るのならわざわざ頼みには来ない。」

現場を抑えるしかないなんて人が足り無すぎる…。
というか…いつの間にか普段の話し方になってるし。

「とにかく頼むわ。
今の私にはここに留まるだけでも負担になる…。」

よくわからない事情のような気もするけど
別に私の有無を問わずに部屋から出て行ってしまった。


「ノエル…。」

アルシェリルがいなくなってようやくアリスが口を開く。

「大丈夫よ。
嘘でも真実でも一応確かめる。」

「うん…。」

不安そうに見てくるアリスを抱き締めると
アリスも納得してくれる。

問題はアリス。
連れて行くべきなのか置いていくべきなのか
それが分からない。
もし現場に居合わせたりなんかしたら
見せたくないような物が見えるかもしれない。
そう思うと連れてなんか行きたくないけど
1人置いて行くなんて事も考えられない。


1日考えた結果。
リアに預ける事にした。
私とだって仲良くなれたんだから全然平気なはず。
ちょっと不安もあるけど
何かあっても大丈夫。
それは一番思える。

リアには理由なんて言わないで
私は1人、街へと向かった。


第02話〜宿命〜


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