2008年9月16日(火)
昨日と同じく目が見えない。
朝なのか昼なのか夜なのかすら分からない。
ただ、声だけでしか判断できない。
おはようとか聞こえるからそう思うだけ…。
そういえば…病名。
なんだか長くてよく分からない名前だった。
漢字も分からないとあまりぱっとしない。
「じゃあ、今日も検査するからね。」
看護師が私の手を握りながらそう言っている。
私に言っているの?
そんな事すら全然分からない。
お母さんいつ来るんだろう…。
午前中。
結局検査が終わってもお母さんは来なかった。
何も見えないと何もする事も無い。
別に具合が悪いわけでもないから寝てる必要もないけど
立って歩く事なんて出来ない。
それにご飯。
朝も昼も1人じゃ食べられない。
何も出来ない…。
午後になってから友達が何人か来たみたい。
「より子、大丈夫?」
「うん、別に見えないだけで平気だよ。」
「そっか〜良かった。」
「すぐ見えるようになるんでしょ?」
その言葉が私の心臓を止めさせた。
ずっと見えないなんて考えてもいなかった。
治る。
そうに決まっている。
このまま見えないなんてありえない。
すぐ治ってまた学校行くんだ。
意味なんてないと思っていても皆言っているからってだけで行っていた学校。
行けないって思う途端に考えが変わった。
わがまま…。
いつ治るんだろう。
治るんだろうか…。
夕方になってようやくお母さんが来た。
「色々持ってきたよ。」
普段は私が使っていた物。
毎日聴いてる曲とか…CDばっかり…。
他の物…見えないと使えないから?
携帯も化粧品も…。
見えないと何にも出来ないんだ。
「お母さん、明日も仕事?」
「…そうだよ、今週は日曜日だけだから他の日はこの時間からしか来れないかな。
ごめんね。」
「ううん。
私は良いんだけどさ…お母さん―――」
言いかけて辞めた。
そんな言葉聞きたいはずがない。
嫌なら最初から私を引き取って育てたりしてない。
それからお母さんが帰ってまた1人。
何もする事もない。
ただCDを聴いている。
話しかけられたくないっていうのもあった。
どんな顔で私を見ているのかすら分からない。
私は人と話すときどんな顔をしていただろう。
仲の良い友達には?
どうでも良かったクラスメートには?
彼氏には?
嫌いな奴には?
お母さんには?
それすら分からない。
考えて顔なんて作ってなかった。
なのに見えない途端考えても分からない。
彼氏…あいつはお見舞いにすら来ない。
明日は来るだろうか。
来て欲しくない気もする。
どんな顔をして会えば良いんだろう。
そんな事すら覚えてない。
見えない以上、あいつの良さなんてどこにあるんだろう…。
この日から私の絶望がゆっくりと足音も立てずに忍び寄って来る事になる。
そんな事、その時の私には思いもよらなかった。
第03話〜簡単に諦めちゃ駄目〜