2008年9月18日(木)

検査の結果が出た。
原因不明。
どこもおかしくは無いのに見えなくなっているらしい。

絶望だ。
もう見える事はないんだ。

ほんの小さな希望まで持っていかれた。
お母さんの顔…どんなだっけ。
友達は?
彼氏は…?

そういえばあいつ。
なんで来ないんだろう。
友達もあれから来ない。


「より子。」


部屋へ戻るとお母さんが抱きしめてくれる。
温かくて良い匂い。
お母さんってこんなだったっけ…。


その日、午前中休みを取ってまで検査結果を一緒に聞いてくれたお母さんは
昼前に病室を出て行ってしまった。


「より子ちゃん、お昼ですよ〜。」

みやこさんだ。
午前中はすぐ検査結果聞きに行くって言うから
怒ってるのか分からなかったけど…。

「どうしたの?
そんな顔して。」

どうしたって…どんな顔してるんだろう。

「私はね。
目、見えなくなった事ないけれど、より子ちゃんなら大丈夫。」

他人事だからって…。
そうだ。
他人なんだから適当に励まそうとしてるだけなんだ。
仕事だからそういう言い方してるだけなんだ。

「ちょっと外の空気でも吸ってこようか。」

「うん…。」


部屋にいるのも嫌だったし久しぶりに外に出れる。


「気持ち良いでしょう。」

風がそよそよと体をかすめていく。
気持ち良い。
けど、もう見えなんだ。
空も人も何もかも。
もうなんかこのままで良い。

どんだけしたって何も変わらない。
見える時より何かできるようになるわけないし
昨日だってコップを掴むだけであんなに苦労した。


ずっと入院してれば良いんだ。
そしたら何もしなくても良いんだ。

「より子ちゃんの夢って何?」

急に何!?
夢…そんなのもうない。
もう?
最初からあったっけ。
夢…。
こんな私に何か出来るわけない。
元々皆より何かできるなんて事もないのに
目が見えないなんてなったら人と同じどころか
赤ちゃんとかお婆ちゃんと同じだ。

「そろそろ戻ろうか。」

「うん…。」

しょんぼりしてるように見えるのかもしれない。
けど、どうでも良い。
お母さんだってきっとがっかりしてるんだ。



座っていたベンチから立ち上がろうとした時だった。
よろよろっとなってしまった。

倒れる!?
って思ったけど柔らかい体が私を支えてくれた。

「みやこさん!?」

「大丈夫?
気を付けないと駄目よ。」


…!?
なんか変。
なんだろう…この感じ。


「より子ちゃん。
ぼーっとしてないでしっかり1人で立って。」


Σ
忘れてた。

私はみやこさんの体にもたれかかっていたのを忘れていた。

「ごめんなさい。」

「良いんだけど気を付けないと駄目だよ。
1人で出歩けるようにもならないと困るんだから。」

「うん…。」


他人事だ…。
見えない辛さなんてなんも知らないのに…。


その時はまだまだ知らなかった。
みやこさんがどんな人なのか。
どうしてこんなに私の為に頑張ってくれたのか。

何も知りもしなかった。


第05話〜こ・ん・ど・あ・そ・び・に・き・ま・す〜


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