それからどれだけの死人を葬っただろう。
全く見分けが付かないままで
現場を抑えるしかないノエル。
もちろん犠牲者もそれだけ増えていった。

「きゃ〜。」

また悲鳴!?

ノエルはすぐにその現場へと向かう。



そこには首を絞められている女の子。
そして首を絞めている女の子。
しかし、その力は女の子の力ではない。
今にも折れそうな力で締め付けている。
もはや、窒息死狙いではなく首をへし折る気だ。

ノエルは即座に間合いを詰め首を掴んでいる女の子を
吹き飛ばした。

「下がってて。」

私は女の子に言うが意識が朦朧としているらしく
ゼエゼエしている。
それでも今は治療する事も出来ない。
まずは…。

「いてて…。
何するのよ…ひっ。」

ひっ?

「あ、あ、あ、あなた…あの時の化け物!?」

どうやら間違えないらしい。
アクアが殺した者。
死人だ。

どうだとしてもノエルはもう迷わない。
氷の剣で死人を一刀両断。



「大丈夫?」

なんとか意識を取り戻した女の子は
何が起きたのか覚えていないらしくキョトンとしている。

「1人で帰れそう?」

喋る事が出来ないのか無言のまま首を振る。

まあ、1人で帰すのも危ないし…。
送った方が良いかな。
それにしてもこんな夜中にどうして出歩いていたんだろう。
事件が起きてる事は街の誰もが知ってるはずなのに。

意識はしっかりしているのか手を貸さずにでも
歩き出す女の子。

しかし、歩いていく方向がどうも不思議だった。
住宅街から離れていく。


そして、いよいよ怪しい場所へと来ると女の子の足が止まった。

「貴女の家はここなの?」

そこにはとても住んでいるとは思えない廃屋があるだけ。
だが、中からは何者かの気配がする。
それも1人2人ではない。

ぞろぞろと出てくる怪しい人々。

こんな廃屋に大勢…。
まさか。

無言で次々とノエル目掛けて刀を振り下ろしてくる。
人なのか死人なのか分からない以上斬り捨てるわけにはいかない。

ノエルは一時退却し、街を出た。



しかし、あっという間に追いついてくる。

いったいなんなのよ。
もう…。
かと言って死人の証拠もない。
けど…。

ノエルは止まって振り返ると
すぐに冷気を集め粉状にしたまま
辺りにいる者たちへとぶつけた。

一斉に飛ばされた冷気の粒は肌をかすめて飛んで行く。

血が出ていない。
やっぱり死人!?
それじゃあ、私が死人狩りなんてしているから!?

考えている暇なんてない。
次々と襲い掛かってくる死人。
とは言え、所詮は人。
一撃で簡単に崩れ落ちていく。

何人いても同じだけど…仲間意識はあるのかしら。
というか人と変わらない。
ただ皮を被り続けないと人の形を維持できない。

!?
一番奥にさっきの子がいる。
あの子もそうなの?
さっき襲われていたのに。

あの子は何か違う気がする。
そうノエルは思った。

ほんのわずかな時間で全ての死人を葬ると
その子だけが残っている。

「貴女。
本当に死人?」

確かにさっき冷気の粉で切り裂いた場所からは
血が出ていない。
それでも何か他の死人とは違う。

やっぱり喋れないのだろうか。
けど他のとは違って襲い掛かって来ない。

私が近づくとその子は同じ歩数だけ後ろへ下がる。

「ねえ、別に何もしないから喋ってくれないかな?」

また首を振る。
なぜ話せないのだろう。
もう誰の気配もないのに。

「貴女も死人なの?」

今度は首を何も動かさない。
という事はやっぱり死人?

「貴女たちの目的はなに?」

今度は困った顔をする。
どうやら別に目的はないらしい。
きっとまだ死にたくないってそれだけなのだろう。
生きていく方法があれしかないのなら
そうする人もいるのは当然。
けど…。
私はどうしたら良い。
なぜだか再び迷っている。

私はゆっくりとその子に近づいていく。
今度は逃げない。

目の前に立っても…
やっぱり人と変わらない。
本当に死人なのだろうか。
分からない。

歩いてきた道を見ても…
血が出ていないからそれが分かるっていうだけで
斬る感触は人そのもの。
斬った後砂になって消えてしまわなければ
人と思っても仕方ない。
現場を誰かに見られでもしたら私も立派な殺人者かもしれない。

「私は貴女たちをあの世へ送らないといけない。
既に死んでいる貴女たちよりも、
今を生きる人たちを助けたい。」

女の子は全く表情を変えようとしない。
私はそんな子に…
刃なんて向けられない。
とは言ってもこのままにしておいたら…。
この子はきっと囮にさせられただけ
他の死人とは違うから殺されちゃうんじゃ。

それにきっと何か方法はあるはず。
人の皮じゃなくても…。

「一緒に行こう?」

私はリアやアリスと出会った時の事を思い出した。
この子だって1人ぼっちなんだ。

始めて目が合った。
なんて目をしているんだろう。
昔の自分のようにも見える。
頼れる者もいなく1人で生きるしかない現実。
死のうにも死ねない。
そんな勇気もない。

「何か方法見つけるから。
きっともっと良い方法あるから。」

私がすーっと手を出すと…
そっとその手を重ねてくれた。


そしてこの街を後にする事にした。
あれだけ大勢退治したのならほとんどいないだろうし
これ以上いても死人の方も警戒する事は必須。

そして向かったのはあの廃教会。
どうしたってあの場所が一番落ち着く。





あまり疲れもないのかずっと変わらない顔で
私と同じように歩く女の子。
歳は…アリスと同じくらいだろうか。
とは言っても今被っている皮だから実際には分からない。
せめて喋れれば分かるのに。

廃教会。
ここにはもう何もいない。
誰も留まる事も無い。

「さてと…今日はここでゆっくり眠ろうか。
何かあったらすぐ起こしてね。」

私が寝ようとすると
ぐいーっと服の裾を引っ張ってくる。
どうやら眠れないらしい。
私もそうだった気がする。
1人になってからしばらくはずっと眠れない日が続いた。

「ワンワン。」

わんわん?
犬の声…。

ふと見ると女の子の横に犬がいる。

「クーシーおいで。」

喋った!?
女の子が喋った。
そして笑顔で犬とじゃれ合っている。
そっか。
友達いたんだ。

「クーシーって言うの?」

「うん。」

今度は私の言葉にも答えてくれる。

「可愛い子ね。」

けど、この犬も死んでる?
そんなわけないか…。

「貴女の名前はなんて言うの?」

「ナイトメア。」


第04話〜油断〜


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