ナイトメア。

そう言った女の子は昼間、普通にしている。
クーシーと外で遊んでいるだけ。
動物には好かれるのかもしれないけど
人とは全然接しようとはしない。

話しかけられそうになるとささっと逃げて私の所まで来てしまう。

出来る事なら本当に人に戻って欲しい。
けれどいくら考えた所で良い案なんて浮かばない。
被せただけの皮膚。
腐って当然。
ずっと変えなくて良いものなんてありえない。
腐ってしまえばきっとあるのは死だけ。

助けるなんて言うのはこんなに簡単なのに。
どうして助けられないのだろう。

いくら強くなってもできない事もある。
それは知ってる。
過去の事も変えられないし
未来の事は分からない。

リアがしたように運命をかえるっていうのは
本当には出来ない。
本当に必要なのはリアのような強い意思。
曲げない信念。
私にはそれがない。
自信もなければ勇気もない。
いつも頼ってばっかりだ。

今頃アリスはリアと何してるんだろう。
ちゃっとやってるんだろうか。




その頃、リアの家ではアリスが大変な事になっていた。

「ちょっと暴れないのっ。」

「やだーっ。」

「大人しく切られないさい。」

逃げ回るアリスを追い掛け回すリア。

「もう〜。
そんなぼさぼさじゃ可愛くないわよ。
ちゃんと切ってあげるから大人しく椅子に座りなさい。」

ぶーぶー言いながら逃げ回るアリス。
確かにうっとうしいと思いながらも
切られるとなるとなんだか複雑。
だから、自然と逃げ出してしまう。

「ちょっと綺麗に整えるだけだから〜。」

にやにやしながら近づいてくるリアには誰もが
逃げ出すかもしれない。
ノエルだって嫌だろう。

「リアちゃんこわ〜い。」

楽しみながら逃げるアリス。
少し前なら誰の前でも窮屈な表情しかしていなかったのに
いつの間にかこうしてリアの前でも
色々な表情をする事ができている。

考えてする事じゃない。
自然と出来る笑顔。
それに気が付いたアリス。
無理なんてしなくても良いんだ。
私は私で良いんだってようやく思えるようになってきた。

「じゃあ、切ってあげないから〜。」

ぴたっと追いかけるのを止めると
アリスも動きを止めた。

するとすかさずリアがアリスを取り押さえる。

「あ〜〜〜ずるい。」

「ずるくな〜い。
こんな初歩的な罠にはまるなんてまだまだ子供だね。」

ぷにぷにとほっぺたを指でぐいぐいする。

「さあ、大人しく椅子に座って。」

ふくれた顔をしているアリスだが大人しく椅子に座って
髪を切られる。

そしてたった10分程度で終了すると
さっきまでばさばさだったアリスの髪が綺麗に整った。

「どう?」

返事がない。
どうやら眠ってしまったらしい。
リアはアリスが起きないように切った髪を
綺麗に床へ落とすとそのままベッドの上を運んでいった。

私と似た人生か。
いなきゃいないで寂しいのかな。
全然会ってないけどお父さんもお母さんも元気だろうか。
たまには会うのも良いのかな…。

リアはアリスの寝顔を見ながらそんな事を思っていた。





夜。
ノエルはまた夜の街を歩く。
街を変えてもやはり同じ。
死人が人の皮欲しさに徘徊している。
だが、全てが死人とは限らないが故に
犯行現場を抑えないと手を出せないのが現状である。

「ワンワン。」

びくっとしたノエルだったがすぐにクーシーの声だと気が付くと
慌ててクーシーの口を抑える。

ちょ、なんでクーシーが。
辺りを見回すがナイトメアの姿はないようだ。

「駄目じゃないの。
ちゃっと家でナイトメアの事見ててくれないと。」

そう。
一応は死人。
何をしだすか分からないってのもあるし
見ようによっては裏切り者。
1人にするのは危険。

と、急いで戻ろうとするがさっきの一声で死人に見つかっていた事に気が付く。

「クーシー逃げるよ。」

しかし、クーシーは逃げないどころか
向かっていく。

それも噛み付いている。

「こらっ!?」

人かもしれないのになんて事を…と思っていると
次々と砂になっていく。

!?
もしかしてクーシーって人と死人を見分けられるの!?
人より鼻が良いって言うし…
もしかして。

クーシーは死人だけをしっかり選び全てを砂にしてしまった。
残っていたのが本当に人なのか分からないけど
消えたのは確かに死人だった。

気を失っている人たちを一応安全そうな場所へと移すと
急いで廃教会へと戻った。

すると、明らかに様子のおかしいナイトメアがいた。
苦しそうにもがいている。

「大丈夫!?」

近づこうとすると異様な臭いが鼻につく。

まさか…。
もう腐敗し始めてるの!?
どうしたら…。

「破壊しなさい。」

背後から聞き覚えのある声がした。

「アルシェリル!?」

「何を迷う。
それ以上ほっとけばその者も外にいたあれらと同じ行動をする。」

「そんな。」

ノエルが戸惑っているとアルシェリルは
全身を覆うぼろぼろの布切れをしっかりまとったまま
ナイトメアに近づいていく。

「何を!?」

「私がとどめを刺す。」

「止めてっ。」

ノエルがアルシェリルに向かっていくと
アルシェリルは雷をノエルへと落とす。

「痛っ。」

「良い子だからそこで見ていなさい。
貴女の水では私に勝てない事は実践済みのはずでしょう。
死神の力でも出せれば別だけど。」

死神…あの力…。
あれからいくら何をしてみても出せないあの力。
あれが出せないと助けられない!?

戸惑っているとクーシーが先にアルシェリルへと向かっていくが
簡単に雷にやられてしまう。

「クーシー!?」

何を迷っているの。
やるしかない。
無理でも今助けられるのは私だけ。

と、向かおうとしたがアルシェリルが口を開く。

「ノエル。
なぜ、ころころと変わる。
人を傷付ける死人を排除する為に来たはずなのに
なぜ死人を助けようとする。」

「分からない。
けど…何か方法が―――。」

「ない。
中身が死んでいる人間にいくらかぶせた所で
人にはならない。
ノエルとは違うのだ。」

私!?
そうか…私も作られた人。
この体も作りもの…。
じゃあ…。

「アルシェリル。
貴女…方法を知っているのね。」

1歩1歩ナイトメアに近づいていたアルシェリルが
その歩みを止めた。

「確かにあるにはある。
それを言う義理はない。」

力ずく。
それしかないと言わんばかりにアルシェリルがノエルの方を向いた。

私には水系の力しかない。
いくら強い水を放っても通じない。
死神の力…。

考えている時間はない。
一刻も早くナイトメアをなんとかしないと
このままでは砂になってしまう。

そしてアルシェリルも迫ってくる。

どうする事も出来ないノエルはとりあえず
冷気を集め雷に対抗しようとしたが
アルシェリルは雷など出さずに素手でノエルの腹に一撃。

「!?」

軽い。

と、思った瞬間体中に電撃が走る。

「ノエル。
油断大敵。」

地に倒れ込むノエルを見ながら自慢げに指から放電してみせるアルシェリル。
しかし、ノエルも黙っていない。
倒れていた体勢から瞬時に移動すると
アルシェリルの周りを冷気で取り囲み一気に固める。
アルシェリルは氷の中に閉じ込められるが
すぐに手からの放電によってもろくも崩れ去る。

そして、そのまま放電を強めるとノエルに直撃する。

「はぁはぁ…。」

「良い加減にしなさい。
無駄な事は長く続けるものじゃない。」

アルシェリルが指に力を込めるようにすると
雷が集まりさっきよりも強い雷になる。

ノエルに避けるだけの力はもうない。
目を開けている事さえやっとだった。

「さあ、これで終わり。」

アルシェリルがその雷を放つと一直線にノエルへと向かっていく。
そして大きな爆発音と共に辺りは煙に包まれた。


第05話〜死神〜


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